2024年8月
◇◆首相交代と最大野党前進党の解党による影響◆◇
こんにちは。鳥取県東南アジアビューローの辻です。
日本でも報道されている通り、8月7日にタイの憲法裁判所により民主派の最大野党「前進党」に解党命令が下され、その1週間後の14日には同じく憲法裁判所によりセター首相が解職を命じられ、政治的な混乱が心配されています。今回は首相交代と前進党解党による影響についてお伝えします。
現在のバンコク市内の治安状況
コロナ禍の2020年10月、当時の軍政や王室制度に対するデモ集会が数万人規模の大きな集会に発展し、治安当局が強制排除に乗り出す事態となりましたが、今回は今のところ大規模な抗議集会などは起きていません。しかし、今後の情勢によっては大規模なデモ集会に発展する可能性もゼロではありませんので、タイへ渡航される際は最新情報の入手に努めてください。
最大野党「前進党」の解党
昨年5月に行われた総選挙では、選挙前の「タクシン元首相派のタイ貢献党が第一党、革新的政策を掲げる前進党が僅差で第二党となる」という予想を覆し、前進党が151議席(下院定数500議席)で第一党、タイ貢献党が141議席で第二党という結果となりました。この2つの党が主導して連立政権が組まれ、前進党のピター党首が首相に指名されると見られていました。親軍部派が大半を占める上院と、連立政権内での影響力低下を危惧したタイ貢献党が手を組んで、連立政権の枠組みから前進党の排除に動いたため、前進党は下院で最大議席を持ちながらも野党となりました。首相にはタイ貢献党のセター氏が就任し、以前は対立関係にあったタクシン派と親軍勢力が手を組むという歪な形の政権発足となりました。この政局にはタイの有権者、特に若年層から失望の声が多く上がりましたが、前進党の人気は依然として高く、ピター党首の今後が期待されていました。
前進党回答を報じるタイメディア 画像引用:matichonweekly.com
そんな中、前進党が選挙公約に掲げた改革案の中にあった「不敬罪の緩和」などを憲法裁判所が問題視し、国王を元首とする体制の転覆につながり得るものだとして解党を命じ、元党首のピター氏と党の幹部10人に10年間の政治活動を禁止する判決が下されました。前進党の解党後、前進党の残された幹部は新たに「人民党」を設立し、次回2027年の選挙に向けて立候補者育成を始めています。現在同党には一般市民からの寄付は寄せられており、寄付金額は既に2,500万バーツを超えていると見られ、支持者の意識も抗議活動から人民党への支援に切り替わってきていると思われます。
セター首相解任の影響
セター首相は今年4月に行った内閣改造の人事で、タクシン氏に近い人物を首相府相に登用しましたが、この人物が過去にタクシン氏の汚職疑惑をめぐる裁判で弁護士を務めた際に、担当判事に対する贈賄罪で禁固刑を受けた過去があることが問題視され、憲法裁判所から「憲法に定められた倫理規定に反する行為を行った」として首相の解職を命じる判決が下され、セター首相は同日付で失職しました。この裏には、2006年のクーデターで失脚して以降、長年にわたり海外逃亡生活を続け、セター首相就任後に帰国し、その後恩赦を受け再び政界への影響力を見せはじめたタクシン氏をけん制する動きと見られています。
これら憲法裁判所の一連の動きは、過去にも繰りかえされてきた“司法によるクーデター”という声も多くあがっており、憲法裁判所に強い影響力を持つ親軍保守派に対する不満が高まっています。
タクシン元首相の次女ペートンタン氏の首相就任
セター首相の解任後、タイ貢献党の党首でタクシン元首相の次女ペートンタン氏が第31代の首相に選出されました。女性の首相就任は、ペートンタン氏の叔母(タクシン元首相の妹)のインラック元首相に続いて2人目、37歳での首相就任はタイ史上最年少での就任となります。専門家の間では「タクシン元首相という強い後ろ盾があるため、安定的な政権運営のためには無難な人選」という声がある一方、「司法の介入により、セター首相やかつてのタクシン元首相、インラック元首相と同じ結末を辿るのではないか」と保守派や進軍勢力による巻き返しを心配する声もあり、現時点では見通しが分かれています。
ペートンタン新首相の就任式 画像引用:thaipbs.or.th
タイの世論調査機関「スーパーポール」が8月16日~17日に実施した緊急調査(回答者 1,054 人)によると、ぺートンタン氏の首相就任について「支持する」が46.1%、「支持しない」が26.4%となっており、「支持する」が20ポイントほど高い結果となっています。「新政権に期待する政策」の調査では、物価高や電気代値上げによる生活費高騰の改善を求める声が74.1%とずば抜けて高く、経済対策が新政権の支持率向上のカギと思われます。その背景には、首相時代に積極的な経済政策で安定的な経済成長を遂げたタクシン元首相の政策への関与に対する期待も見え隠れしますが、そんな中、8月22日に開催されたイベントに出席したタクシン元首相は演説の中でタイ経済に対するビジョンを述べ、政府に対して14項目の経済政策を提案するなど、早くも「影の首相」としての存在感を示しました。
タイの経済はコロナ後、国の基幹産業である製造業、観光業ともに回復が遅れており、本格的な回復のためにも政治の安定が求められていますが、ぺートンタン首相に大学受験時の不正疑惑や不動産取引に関する汚職疑惑が浮上するなど、早くもその足元が揺らいでいます。「すねの傷」を攻撃されて、またしても首相の座を追われるのか、または元首相である父の強い影響力、指導力を上手に使いながら安定した政権運営ができるのか、新政権の今後が気になるところです。
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