2024年9月
◇◆タイの天然ゴム産業:世界をリードする生産国の現状と未来展望◆◇
こんにちは。鳥取県東南アジアビューローの辻です。
タイを代表する農産物といえばお米が有名ですが、かつては世界一を誇っていた輸出量も、今ではインドやベトナムに抜かれて第6位となっています。その一方で、現在も生産量世界一を誇る農産物が天然ゴムです。今回はタイの天然ゴム産業の今と未来についてお届けします。
タイは長年にわたり、世界最大の天然ゴム生産国としての地位を確立してきました。2022年の生産量は480万トンで、世界全体に占めるシェアは33.4%で1位となっています。この地位を築くまでに至ったのは、タイの地理的条件と産業政策の成功が大きな要因です。特に南部地域の気候と土壌がゴムの木の栽培に適していることが、タイの天然ゴム産業の強固な基盤となっています。
タイにおける天然ゴムの収穫地域と量 出典:Krungsri Research
世界の約3分の1という圧倒的な生産量を背景に、タイは世界第2位のタイヤ輸出国となり、その輸出額は2,310億バーツ(約8,800億円)に上りました。さらに、タイは医療用ゴム手袋の主要生産国としても知られており、この分野でも世界市場で重要な位置を占めています。
タイにおける天然ゴムの生産、消費、輸出量 出典:Krungsri Research
タイの天然ゴム産業の強みは、高品質な製品を競争力のある価格で提供できる点にあります。この強みを活かし、ブリヂストン、ヨコハマタイヤ、住友ゴムといった日本のタイヤメーカーをはじめ、ミシュラン、グッドイヤー、マキシスなどの世界的なブランドがタイに生産拠点を設けています。これらの企業がタイを選択する理由は、単に原材料の調達が容易であるだけでなく、タイの労働力の質の高さや、政府の外国投資に対する支援策なども挙げられます。
タイ大手アユタヤ銀行の調査部門クルンシィ・リサーチによると、2023年から2025年にかけて、タイのゴム産業はさらなる成長が見込まれるとされています。この成長予測の背景には、いくつかの要因が考えられます。
- 生産面の改善:栽培面積の拡大、気候条件の改善、農家の生産技術向上などにより、生産量の増加が予想されています。タイ政府も、ゴム農家への支援策を強化しており、これが生産性向上に寄与することが期待されています。
- 競合国の状況:インドネシアやマレーシアといった主要な競合国は、労働力不足や病害虫の問題により完全な回復には至っていません。これにより、タイの市場シェアが拡大する可能性があります。
- 需要の増加:自動車産業(特に電気自動車)、医療用品、建設業などの成長により、天然ゴムの需要の押し上げが予測されています。特に、世界的な環境意識の高まりによる電気自動車市場の拡大は、タイヤ需要の増加につながると見られています。
- 価格競争力:世界的な原油価格の高騰により、合成ゴムに比べて天然ゴムの価格競争力が高まっています。これにより、多くの製造業者が天然ゴムの使用を増やす傾向にあります。
- 医療分野での需要:高齢化社会の進展や、新型コロナウイルスのパンデミック後の衛生意識の高まりにより、医療用ゴム製品の需要が増加しています。
以上の要因から、今後のタイのゴム輸出量は年間3.5%から4.5%の成長が見込まれています。特に、中国、アメリカ、日本、欧州などの主要市場での需要増加がこの成長を牽引すると予測されています。
その一方で、タイのゴム産業はいくつかの課題にも直面しています。
- 競争の激化:CLMV諸国(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)でのゴム生産が拡大しており、特に中国企業による投資が増加しています。これらの国々との競争が激化する可能性があります。
- 非関税障壁:世界各国で環境規制や品質基準が厳格化されており、これらの非関税障壁(NTBs)への対応が求められています。
- 気候変動:地球温暖化の影響により、ゴムの生産に適した地域が変化する可能性があります。長期的には、生産地域の移動や新たな栽培技術の導入が必要になるかもしれません。
- 価格変動:天然ゴムの価格は国際市場の影響を受けやすく、急激な価格変動がゴム農家の収入に影響を与える可能性があります。
これらの課題に対応しつつ持続可能な成長を実現することが、タイのゴム産業の今後の鍵となるでしょう。タイ政府はこれらの課題に対して、以下のような対策を講じています。
- 研究開発の強化:新品種の開発や生産性向上のための技術革新に対する投資
- 付加価値の創出:単なる原材料供給国から、高付加価値製品の生産国への転換
- 持続可能性の推進:環境に配慮した生産方法の導入や、小規模農家の支援などを通じた、産業の持続可能性の向上
- 国際協力の強化:他のゴム生産国との協力を通じて、価格の安定化や市場の拡大
タイの天然ゴムは、タイヤや医療用手袋以外にも、自動車部品、建設資材、スポーツ用品など、多岐にわたる製品に使用されています。ゴムを主原料とする製品の製造業者にとって、タイに生産拠点を設けることは生産コスト削減の有効な戦略となり得ます。さらに、タイの充実したサプライチェーンや熟練労働力の存在も、外国企業にとって魅力的な要素となっています。
世界最大の天然ゴム生産国としてのタイの地位は、今後も世界の製造業において重要な役割を果たすでしょう。環境への配慮や持続可能性への取り組みを強化しつつ、技術革新と市場ニーズへの適応を続けることで、タイの天然ゴム産業は更なる発展の可能性を秘めています。グローバル経済の変動や新たな技術の台頭など、様々な変化に直面する中で、タイのゴム産業が如何にして競争力を維持し、成長を続けていくのか、今後の展開が注目されます。
鳥取県東南アジアビューロー Tottori-Southeast Asia Trade and Tourism Bureau
担当:辻 三朗 Saburo Tsuji
Address :1 VASU 1 Building, 12 FL., Room 1202/C, Soi Sukhumvit 25, Sukhumvit Rd.,
Klongtoey-Nua,Wattana,Bangkok 10110
Tel : +66-(0)-2-260-1057
Mobile : +66-(0)-86-358-7298
Mail : tottori@aapth.com
|
【鳥取県東南アジアビューローの運営法人(鳥取県より業務委託)】
■アジア・アライアンス・パートナー・ジャパン株式会社 http://www.aapjp.com/index.html
タイを中心に、ベトナム・インドネシア・インド・メキシコにて主に日系中堅・中小企業様の海外進出や進出後の会計税務法務を中心とした運営支援業務を行っております。
【免責事項】
■情報の掲載内容には万全を期しておりますが、その正確性、完全性、有用性、適用性についていかなる保証も行いません。また、その利用により生じた被害や損害に関して一切の責任を負いません。
タイ王国の最新の現地情報については、以下にお問合せください。
鳥取県東南アジアビューローの運営法人(鳥取県が業務委託)
アジア・アライアンス・パートナー・ジャパン株式会社
タイを中心に、ベトナム・インドネシア・インド・メキシコにて主に日系中堅・中小企業様の海外進出や進出後の会計税務法務を中心とした運営支援業務を行っております。
免責事項
情報の掲載内容には万全を期しておりますが、その正確性、完全性、有用性、適用性についていかなる保証も行いません。また、その利用により生じた被害や損害に関して一切の責任を負いません。