1 調査箇所
平成28年5月24日(火)
・鹿児島県歴史資料センター黎明館(鹿児島市城山町)
平成28年5月25日(水)
・鹿児島県庁(鹿児島市鴨池新町)
・南さつま市坊津学園(南さつま市坊津町)
平成28年5月26日(木)
・福岡市美術館(福岡市中央区)
2 調査委員
内田(隆)委員長、西川副委員長、
伊藤委員、稲田委員、濵辺委員、木村委員、福浜委員、松田委員
3 調査内容
○鹿児島県歴史資料センター黎明館
・歴史教育への博物館の活用について
○鹿児島県庁
・家庭教育支援条例について
・義務教育学校の設置の検討状況について
○南さつま市坊津学園
・義務教育学校に向けた取組について
・コミュニティスクールの取組について
○福岡市美術館
・PFI手法を活用した福岡市美術館のリニューアル事業について
4 随行者
議会事務局調査課 村中課長補佐、池原係長
5 調査結果
今回の調査のテーマは、歴史教育への博物館の活用、家庭教育支援条例、義務教育学校の設置検討とコミュニティスクールの取組、PFI手法の活用についてでした。
○歴史教育への博物館の活用について
鹿児島県歴史資料センター黎明館は、明治維新百年を契機に開設された総合博物館として、鹿児島県の歴史、考古、民俗、美術、工芸を紹介していますが、やはり江戸時代から明治時代にかけての所蔵資料が数多く展示してありました。
観光誘客の対応も含めて柔軟な運営がしたいという整備検討時の知事の意向により、教育委員会ではなく、知事部局の県民生活局が所管しています。
歴史教育への博物館の活用としては、小学4年生~中学生及び保護者を対象に、ものづくりや史跡めぐりなど、考古、歴史、民俗、美術・工芸に関する体験学習を実施しています。学校との関わりとしては、市内の中学校で夏休み前に学芸員が出前授業に行って展示内容を説明した上で、夏休みに生徒たちが黎明館にやってきて、先生が作ったワークシートに書き込みをしながら見て回るという活動もしており、実践的な歴史教育に貢献しています。
また、平成14年度から、小・中学校・高等学校・特別支援学校教諭を対象に、黎明館を活用した学習支援講座を実施するとともに、一般の方を対象に常設展示の解説講座を実施していましたが、平成28年2月からこの発展的取組として毎週日曜日の11時から約1時間、展示解説員が展示資料をわかりやすく解説する「ウィークリー・ミュージアムガイド」を実施しています。
さらに、鹿児島県の歴史・文化を広く知ってもらうため、ホテルや企業の従業員を対象に、「黎明館研修」を実施されています。
生まれ育った郷土に対する愛着や誇りを醸成するための歴史教育の重要性とともに、観光振興の観点からも、宿泊施設など観光客に接する方々への歴史教育の必要性をあらためて感じました。
なお、博物館や美術館の運営費を入館料収入で賄うことは困難であり、整備に当たっては、公共財としての位置付けをよくよく議論し、共通合意を形成しておくことが重要との助言をいただきました。
○家庭教育支援条例について
鹿児島県では、先行していた熊本県を参考に、家庭教育の関係団体とも意見交換をしながら、自民党県議団が中心となって検討を行い、平成25年10月に議員提案により、家庭教育支援条例を制定しました。
条例の内容でポイントとなるのは、第10条:家庭教育支援施策推進のための財政上の措置の努力義務、第11条:毎年度の施策の議会への年次報告、第12条:親としての学びを支援する学習機会の提供、といった点とのことです。
家庭教育推進に向けた取組としては、普及啓発事業が中心ですが、条例制定後は関係課連絡会議による情報共有等により、部局横断的に取り組むことができるようになったとのことであります。
当初、知事に政策提言等を行う政策立案検討委員会において、条例の検討がされたが、家庭教育の充実を求める意見と社会全体での子育て支援を求める意見があり、方向性がまとまらなかったという経緯がありました。
「法は家庭に入らず」という諺があるが、鹿児島県においても行政が家庭に入り込むことに対する反対の意見もあったとのことであり、この条例の制定に向けては、条例制定者の強い思いが必要であると感じました。
〇義務教育学校の設置検討とコミュニティスクールの取組について
鹿児島県南さつま市の坊津学園は、2中4小を再編し、平成25年度に開校した施設一体型の小中一貫校であり、同時期にコミュニティスクールに指定されています。
来年度からの義務教育学校への移行に向けて準備しており、4(前期)・3(中期)・2(後期)制として、9年間を通した一貫教育を目指しています。
算数・理科・体育・外国語活動を中心に中学校教諭が中期(小学校5・6年)の授業を教えたり、図工・美術・音楽は教科担当制を実施することにより、児童・生徒にとっては、専門性を活かしたわかりやすい授業、9年間を通した指導ができるというメリットがあります。また、教科担任制のメリットとして、通常、小学校教諭が週約30時間、中学校教諭が週約15時間という担当授業時間の格差がありますが、中学校教諭の乗り入れによりこの格差を軽減し、小学校教諭の負担を軽減し、空いた時間をティームティーチングに力を入れるといった対応が可能となっています。
さらに、来年度の義務教育学校に向けて、小規模校においては養護教諭や事務職員が二人ずつはいらないので、これらを一人に減らして、その分、教諭を増やせないかと検討されており、施設一体型の小中一貫校ならではの効率化や学力向上に向けた取り組みは、本県における今後の小中一貫教育を推進する上で、非常に参考になると感じました。
コミュニティスクールの取組としては、学校運営協議会の委員がきちんとした意見を持ち熟議ができるよう、委員の自主的な研修会として企画推進委員会を設置していることが特徴として挙げられます。
また、企画推進委員会の下に、学校を支援する個人やグループの方々で組織される学校支援コミュニティが様々な活動を支援されており、より多くの地域や保護者の協力・支援を受けながら、より良い教育活動の展開を行っている点は、少子化が進行する中における地域ぐるみの小規模校の魅力づくりの取組として、本県においても検討すべき取り組みだと感じました。
〇PFI手法の活用について
福岡市美術館は開館以来37年が経過し、様々な設備が老朽化する中で、PFI手法を活用して今夏から約2年半かけてリニューアルすることとしています。
PFI手法を活用することとなったのは、各種手法を比較検討した結果、整備後15年間の一般財源負担額が一番低く、財政負担の平準化が図れること、さらには、設計・建設・維持管理・運営の一括発注により、民間ノウハウが最も発揮され、サービスの質の向上と効率化が期待される、という結果が得られたことによります。
福岡市美術館は、教育委員会から経済観光文化局へ移管されており、美術館が単なる教育施設ではなく、観光拠点として集客施設になっていかなければいけないという意識があり、美術ファンだけでなく一般の来館者を増やすために民間ノウハウの活用を検討されています。
また、これからの美術館は、例えば金沢21世紀美術館におけるフリーゾーンの活用例にも見られるように、所蔵品を見るだけでなく、地元密着型の教育普及により、固定的なリピーターを作っていくことが重要とのご意見をいただきました。
なお、今回の調査を契機として、PFI手法を活用した場合、建設費の20%に対して交付税措置が受けられる制度があることも確認できており、民間のノウハウの活用方法も含めて、本県における美術館の整備・運営手法の検討の一助となる知見が得られたものと思います。