1 調査日時・箇所・内容
- 平成24年11月5日(月)
- ○熊本市役所
- 熊本市地下水保全条例について、熊本市の地下水保全の取り組みについて
- ○くまもと地下水財団
- 地下水保全に係る実施事業について
- ○熊本大学大学院
- 熊本地域における広域地下水流動の実態とその持続的管理を 目指した取り組みについて 、「とっとりの豊かで良質な地下水の持続的な利用に関する条例(案)」に係る所見について
- 平成24年11月6日(火)
- ○熊本県庁
- 地下水保全条例について
- ○大菊土地改良区
- 地下水涵養の取り組みについて
2 調査委員
- 浜田委員長、砂場副委員長、山口委員、小谷委員、野田委員、市谷委員、横山委員、濵辺委員、森委員
3 随行者
- 鳥取県議会事務局調査課 梅林係長、西村主事
4 調査報告
今回、9月定例会で継続審査となった「とっとりの豊かで良質な地下水の持続的な利用に関する条例(案)」の検証に資するべく、地下水保全に係るさまざまな取り組みを推進している熊本県へ赴き調査を行った。
熊本市役所及びくまもと地下水財団では、熊本市地下水保全条例及び地下水保全に係る実施事業について話を伺った。熊本市民にとって地下水は貴重な財産であるが、年々地下水位は低下し水質の面でも悪化の傾向にあるなど深刻な環境を迎えてきた。このため、市民の共通財産である地下水を将来にわたり守っていこうと、平成19年に条例が改正された。条例では、市は「総合的、広域的な地下水保全対策に努める」、市民・事業者は「自ら地下水の保全に努め市の取り組みに協力する」地下水採取事業者は「採取量の縮減に努め、自ら地下水を保全し、市の取り組みに協力する」旨、それぞれの責務が定められている。市は水質、水量を常時監視し、重大な水質汚染時には自ら保全措置を実施できる。また、吐出口19センチメートル以上の自噴井戸の設置者は届出、採取量の報告の義務が、年間3万立方メートルを超える地下水を採取する場合は節水計画の作成を義務付ける等、地下水の管理に関して種々の規定が設けられている。市においては、数十年来、地下水の採取量や水位等様々なデータが蓄積されてきたため、地下水の流動システムについてもかなりの部分が解明されているようである。今年度設立されたくまもと地下水財団では、そうした調査研究等の成果を踏まえ、行政の負担金及び民間採取者からの会費等を原資に、地下水環境調査研究や硝酸性窒素削減計画の作成支援、水田湛水等の涵養事業の助成など、水質・水量、啓発等の公益事業を実施し、成果を挙げているとのことであった。 次に熊本大学大学院において、日本地下水学会の会長も務めるなど、日本の地下水研究の第一人者である嶋田純教授より、熊本の地下水流動システム等について話を伺った。熊本県及び熊本市で平成6年に実施した熊本地域地下水総合調査において約500箇所の既存井戸を対象に一斉測量調査が実施され、その結果、阿蘇西麓台地の地下水涵養域に当たる菊池台地においては地下水頭の季節変動が10m~20mもの大きな変動を示すことが特徴的で、難透水性湖成堆積物の存在しない白川中流域が効果的な涵養域になっていることが明らかにされているとのことであった。涵養量は他地域と比べても別格で、熊本地域の降水量の多さと火砕流台地の透水特性を反映して、豊かな地下水帯水層が形成されたという。一方、近年地下水採取量が明らかに減少しているにもかかわらず、長期的な水位低減傾向が現れており、涵養域を含む地域全体での農地の減少等による土地利用変化に伴い、涵養量の低減が懸念されてきた。このため、熊本県・熊本市では、地下水を質量両面にわたり総合的な保全と管理を推進していくための指針として「熊本地域地下水総合保全管理計画」を策定し、一定の地域において開発行為を行うに当たっての留意事項を定め、地下水涵養域の保全が図られてきているとのことである。今後の地下水資源の利用やそのための保全・管理を考える上で最も重要になるのは、地下水が貴重な水資源であることについて地下水資源の利用や保全・管理に関わる者が共通認識を持ち、地下水資源を利用する個人や団体の権利を認めながら、公共の財産として持続可能な状態で地下水資源を適正に保全・管理し利用していく方法を考えることが必要であるとの話であった。また、本県の条例案についても「基本的には届出制で基礎データを増やしていくやり方は良い。地下水の状況が把握できていないのであれば、今すぐには許可制は無理と考える」との意見をいただいた。 熊本県庁では熊本県地下水保全条例について関係部局より話を伺った。熊本県では生活用水の約8割、工業用水の約4割が地下水に依存しており、特に熊本地域では生活用水のほぼ100パーセントを依存している。このため地下水は県民の生活と地域経済の共通基盤との観点から、昭和53年に、指定地域における一定規模以上の地下水採取の届出制等が規定された「「熊本県地下水条例」が制定され、平成2年には全国基準より10倍厳しい排水基準を規定した「熊本県地下水質保全条例」を制定、平成12年にこれらの条例を統合し、全県的に大口地下水採取の届出、採取量報告を義務付けた「熊本県地下水保全条例」を制定したとのことである。併せて昭和59年度以降数次にわたり地下水の流動等に関する科学的調査を実施し、保全管理計画の策定に取り組んできたとのことである。従来の条例では届出制にとどめていたため、実質的に自由に採取可能であったこと、節水および地下水涵養対策は努力義務であったため、実行を求める具体的な手段が十分ではなかった等の観点から、平成24年度に条例が改正・施行された。地下水を「公共水」であると位置づけ、事業者、県及び県民が連携・協働して地下水保全に取り組むことの明記、対象化学物質の使用抑制に関する事業者の努力義務の規定、地下水位の低下が顕在化している重点地域での採取許可制の導入、地下水使用合理化計画の作成義務付け、水量測定器設置の推進など。更には許可制の導入に伴い、無許可での採取や水量保全に係る命令違反に対し1年以下の懲役を課する等、より厳しい内容とされている。また、県においても地下水涵養を推進するための指針を策定し、基本的方向や涵養の具体的な方策、涵養を実施すべき量などを定めている。かなり踏み込んだ改正がなされたが、県民が豊かで良質な地下水の恵みを将来にわたって享受するためにと、事業者等への説明や意見交換を経て理解も進んでいるとのことであった。 最後に大菊土地改良区において、水田湛水事業の取り組みについて伺った。減反田に水を張ることにより土壌病虫の駆除や連作障害の防止に役立つとともに、熊本地域の地下水保全に貢献する事業で、今年度は約1880万トンの涵養が見込まれるという。この地域の水田はもともと減水深が100mm/日にもなる「ザル田」であるため、地下水涵養にとっては優れた存在である。具体的には、5月から10月までの間に水張りした場合、1ヶ月11000円/反、2ヶ月16500円/反、3ヶ月22000円/反を協力農家に交付する。事業の主導は熊本市であるが、実施地域は市外であるため、市・大津町・菊陽町及び水循環型営農推進協議会で協定を結び、行政境界を越えて地下水を流域として管理しようとする画期的な取り組みとして平成16年度から始まった。対象地域面積や参加農家戸数も増加し、平成16年で873万トンだった涵養水量は、平成23年には1888万トンまで増え、これは熊本市民が使う70日分の水にあたるという。本県でも地下水流動システムの解析が進み、どの地点での涵養が効果的か解明していけば、効果的な手法として湛水事業を取り入れる余地があるかもしれない。 この他にも、各訪問先で意見交換が活発に行われ、県内の地下水利用の現状及び課題等について各委員の認識が高まり、条例案の検討に際し大いに示唆を与えられた調査であった。今回の調査結果を十分に生かし、本県の宝である優れた地下水の保全等を確保していくため、11月定例会において、よりよい内容とした条例の制定に繋げたい。