恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案への迅速かつ的確な対応の徹底について(例規通達)
平成26年1月30日
鳥生企例規第2号外共発
改正 平成27年鳥務例規第2号、平成28年鳥生企例規第24号外、平成29年鳥生企例規第11号外、平成30年鳥務例規第3号、令和2年鳥務例規第3号
対号 平成24年4月18日付け鳥生企例規第4号外共発 恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案への迅速かつ的確な対応について(例規通達)
今般、恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案を始めとする人身の安全を早急に確保する必要の認められる事案(以下「人身安全関連事案」という。)に対処するための体制の確立については、「人身安全関連事案に対処するための体制の確立について(例規通達)」(平成26年1月30日付け鳥生企例規第1号外共発。以下「人身安全関連事案例規通達」という。)により指示したところであるが、人身安全関連事案例規通達に定めるもののほか、恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案への迅速かつ的確な対応については、下記のとおり徹底することとし、平成26年2月1日から施行することとしたので、運用上誤りのないようにされたい。
なお、対号例規通達は、平成26年1月31日限り廃止する。
記
1 基本的考え方
恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案の特徴は、警察が認知した時点においては、暴行、脅迫等外形上は比較的軽微な罪状しか認められない場合であっても、人質立てこもり事件や誘拐事件と同様に、正に現在進行形の事件であり、事態が急展開して重大事件に発展するおそれが大きいことに加えて、加害者の被害者に対する執着心や支配意識が非常に強く、また、被害者、その親族等(以下「被害者等」という。)に対して強い殺意を有するに至っている場合、検挙される危険性を考慮することなく大胆な犯行に及ぶことがあるところにある。したがって、この種事案への対応に当たっては、加害者が被害者等に危害を加えることが物理的に不可能な状況を速やかに作り上げ、被害者等の安全を確保することが最優先となる。すなわち、この種事案の加害者に対しては、警告等の行政措置が犯行を阻止するのに十分な有効性を持たない場合もあることから、当該措置を優先する考え方を排除し、例えば、被害者に対する脅迫文言等を捉えて速やかに検挙するなど、被害者等に危害が加えられる危険性・切迫性に応じて第一義的に検挙措置等による加害行為の防止を図ること。このため、被害者に被害の届出の意思がない場合であっても、過去の事例から被害者のみならずその親族等にまで生命の危険が及び得ることを十分に説明した上で、被害者等に被害の届出の働き掛け及び説得を行うこと。説得等にもかかわらず被害の届出をしない場合であっても、当事者双方の関係を考慮した上で、必要性が認められ、かつ、客観的証拠及び逮捕の理由があるときには、加害者の逮捕を始めとした強制捜査を行うことを積極的に検討する必要がある。また、被害者等に対しては、まず安全な場所へ速やかに避難させることを最優先に検討し、危害が加えられる危険性・切迫性に応じて、身辺の警戒等の執り得る措置を確実に行うことにより、被害者等の保護の徹底を図る必要がある。
2 組織による的確な対応の徹底
(1) 警察署における対応
ア 相談への対応
(ア)生活安全部門と刑事部門の連携
人身安全関連事案例規通達2(4)において、人身安全関連事案に係る相談への対応に当たり、被害者等に危害が加えられる危険性・切迫性を判断するため必要があると認めるとき、事件化のための擬律判断を的確に行うため必要があると認めるときなどには、生活安全部門の担当者と刑事部門の捜査員が共同で聴取を行うこととしている。したがって、より的確な判断に資するため、恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案に係る相談については、その内容や相談に至る経緯等から見て明らかに刑罰法令に抵触せず事件性が認められない場合、危険性・切迫性が認められない場合等を除き、原則として、両部門の担当者及び捜査員が共同で聴取を行うこと。
なお、共同で聴取した結果、その時点では事件性等が認められず生活安全部門において継続的に相談を受けることとなった事案及び生活安全部門において事件化することとした事案であっても、刑事部門の捜査員は、生活安全部門からの要請に基づき、引き続き共同で相談の対応に当たること。
(イ)制度等の教示
恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案の相談への対応に当たっては、別に定める被害者の意思決定を支援するための手続に基づき、可能な限り早期に、被害者に対し、執り得る刑事手続及び証拠の確保のために必要な事項並びにストーカー行為等の規制等に関する法律(平成12年法律第81号。以下「ストーカー規制法」という。)又は配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(平成13年法律第31号。以下「配偶者暴力防止法」という。)に基づき執り得る措置について、それぞれの要件とその効果等を確実に説明し、積極的な意思決定を支援するとともに、有事の際に110番通報すべき旨や自衛手段も教示すること。
(ウ)被害者の親族等との協力等
被害者の中には、被害の届出をするか否かを決めあぐねる者が見受けられることから、可能な限り被害者の親族等の協力を得て被害者に被害の届出を促すとともに、加害者の行為が被害者の親族等にまで及ぶ可能性があることから、その親族等に対し、警察の執り得る保護を含めた措置と被害防止上の注意事項を教示すること。
イ 警察署長及び本部対処体制への速報
人身安全関連事案通達2(1)において、警察署において認知した人身安全関連事案の全てについて、警察署長に速報するとともに、並行して本部対処体制(人身安全関連事案例規通達1(1)の本部対処体制をいう。以下同じ。)に速報することとしている。
これは、警察本部において、恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案の認知の段階から情報を集約して事態を把握し、警察署に対し必要な指導・助言を行うとともに、被害者等に危害が及ぶ兆候を把握した場合に、直ちに現場支援要員(人身安全関連事案通達2(1)の現場支援要員をいう。以下同じ。)を投入することを検討する必要があるためである。したがって、警察署において当該事案を認知した場合には、警察署長への速報との前後関係にこだわることなく本部対処体制に速報するよう、指導を徹底すること。
ウ 警察署長による指揮
(ア)組織的な対応の徹底
恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案に係る相談については、真に組織的かつ継続的な対応が必要な場合が多いほか、検挙措置等と保護対策等を並行して実施する必要性が高い場合が多いことから、警察署長以下の幹部が当該相談に関する情報を共有し、被害者にとって最も適切な解決策が講じられるよう努める必要がある。したがって、イの速報を受けた警察署長は、事案の内容をつぶさに把握した上で、人身安全関連事案例規通達1(2)によりあらかじめ指定している人身安全関連事案への対処を統括する責任者のほか、必要と認める課長等の補佐を受けて、速やかに当該事案の処理方針及び処理体制を決定すること。
処理方針及び処理体制については、本部対処体制に報告するとともに、その後も、随時処理経過を報告すること。また、処理体制を見直した場合には、新旧の担当者間で当該事案の危険性・切迫性に係る情報を確実に引き継ぐよう指示すること。
(イ)危険性・切迫性の判断と即応態勢の確立
(ア)の処理方針及び処理体制の決定に当たっては、当該事案の危険性・切迫性の的確な判断に資するため、被害者等から加害者の具体的な言動等を十分に引き出すよう努めるとともに、危険性・切迫性を 判断するチェック表を活用する等により、組織的に危険性・切迫性の判断を実施すること。特に、次に掲げるような危険性・切迫性を示す兆候となる情報(以下「兆候情報」という。)を把握した場合その他被害者等に危害が加えられる危険性・切迫性が極めて高いと認められる場合には、即応態勢を確立し、本部対処体制と連携しながら対応に当たること。また、危険性・切迫性の存在が否定できないとき、又は判断できないときについても、危険性・切迫性について積極的に判断して、同様に対処すること。
a 行為者において、被害者等の生命・身体に対する危害を加える旨の言動があること。
b 行為者において、被害者へ物理的に接近しようとする行為があること。
c 行為者の居所が定まらない、又は所在不明であること。
d 行為者について、過去に犯罪や110番での臨場等の取扱いがあること。
e 近隣住民その他関係者等から、aからcまでに掲げる内容の相談が複数にわたりなされていること。
(ウ)事件化の判断等
恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案の相談に係る行為が刑罰法令に抵触するにもかかわらず、被害者に被害の届出の意思がない場合、これをそのまま受け入れるのではなく、事件化を図らない場合に起こり得る事態について理解させるとともに、警察に相談をするに至っているという事情を十分に考慮して、その真意を酌み取るよう努めること。警察署長は、担当者が被害者に被害の届出の意思がなく事件化を図らないと判断した場合には、更に慎重に検討を加え、被害者の真意を見極め事件化の要否を判断すること。
なお、被害者等の真意を酌み取り、より的確に当該事案の危険性・切迫性を判断するため、相談場所、対応者、同伴者を同席させるかどうかなどの対応方法等に十分配意し、被害者等がより相談しやすい環境の確保に努めること。
エ 被害者等の保護措置
(ア)保護措置の徹底
恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案への対応に当たっては、当該事案を認知した段階から、その危険性・切迫性に応じて、被害者等の生命・身体の安全の確保のための措置を最優先に講ずる必要がある。したがって、兆候情報を把握した場合その他被害者等に危害が加えられる危険性・切迫性が極めて高いと認められる場合には、被害者等を帰宅させることなく、安全な場所へ速やかに避難させることとし、やむを得ない事情があり避難させられないときには、被害者等の身辺の警戒等の措置を確実に行うこと。また、危険性・切迫性の存在が否定できないとき、又は判断できないときについても、危険性・切迫性について積極的に判断して、同様に対処すること。このため、当直体制時においても、確実に、鳥取県配偶者暴力相談支援センターその他関係機関・団体と連携し、一時避難等安全確保のための措置が執れるよう、平素から緊密な協力関係を確立しておくこと。あわせて、被害直後における被害者等への一時避難場所を確保するための鳥取県犯罪被害者等緊急避難場所確保事業の積極的な活用を図ること。また、被害者等の避難や身辺の警戒のほか、通信指令システム特定通報者自動表示登録制度への登録、ビデオカメラや緊急通報装置等の資機材の活用など、事案の危険性・切迫性に応じて、できる限りの保護措置を講ずること。
(イ)加害者に対する指導・警告等の実施
刑事事件として立件が困難と認められる場合であっても、被害者等に危害が及ぶおそれがある事案については、速やかに加害者を呼び出し、又は必要に応じて担当者が赴くなどして、事情聴取や指導・警告を行うこと。この際、加害者の言い分に耳を傾け、加害行為をしていることの自覚を促すなど、沈静化を図る観点からの対応にも配意すること。
なお、加害者への対応に当たる際には、被害者等が被害に遭うことがない状況が確保されているかを常に念頭に置いておくよう、職員への指導を徹底すること。すなわち、加害者への抵触の時期や方法については、加害者の性格、加害者と被害者等とのこれまでのやりとりや接触状況等を踏まえ、加害者が警察の関与に対し反発や逆上するおそれを十分に考慮し、加害者の現状を可能な限り把握した上で決定すること。当該事案について、事件化し、又は加害者に対する警告等を行った後は、加害者の再犯性や報復のおそれの有無等を考慮し、再被害防止対象者に指定するなど、被害者等の保護措置の万全を図ること。
オ 各種照会等の実施
警察署長は、恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案を取り扱った担当者に対して、警察庁情報管理システムによる恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案照会業務(以下「恋もつ照会業務」という。)による照会を本部対処体制に依頼して行わせ、当該事案の加害者に係る過去の取扱状況や、加害者が他の都道府県において、恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案の当事者となっていないかどうかについて、確実に確認を行うこと。また、本部対処体制においては、恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案に係る相談を受理した場合には、可能な限り速やかに相談情報ファイルへの登録を行うこと。
カ 相談事案の継続的な把握
警察署長は、恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案と認めた相談については、その推移を自ら見極めるとともに、加害者に口頭による警告を実施したこと、被害者が県外に転居したこと等をもって安易に解決したと判断することのないようにすること。また、一旦解決したと判断した事案について、再び加害者がストーカー行為等を行う事例もあることから、当該事案の担当者を指定するなどして事案の継続的な把握に努めるとともに、特異な状況を把握した場合には本部対処体制に報告すること。
キ 夜間等の当直体制時や交番・駐在所における相談受理時の措置
恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案に係る相談については、夜間等の当直体制時や交番・駐在所において受理する場合が少なくないところ、そうした場合においても、警察署長及び本部対処体制に速報し、必要な指揮等を受けること。警察署長の指揮等を受けるいとまがなく緊急の措置を執る必要があると認められるときは、当該措置を執った上で、実施した措置について速やかに報告し、必要な指揮等を受けること。
(2)本部対処体制における対応
ア 本部対処体制における指導等
本部対処体制は、(1)イにより速報のあった事案について、必要に応じて警察本部の関係所属と連携の上、警察署における事案の処理方針及び処理体制を十分吟味し、必要な事項について速やかに警察署長に対し指導・助言を行うとともに、現場支援要員の派遣等必要な支援を行うこと。
なお、警察署において、当該事案の相談に係る行為が刑罰法令に抵触すると認められるにもかかわらず事件化しないこととする場合は、その対応の適否を判断し、必要な措置が執られていないと認めるときは、当該警察署に対して速やかに指導を行うこと。また、(1)イにより速報のあった事案については、本部対処体制において、報告を受理した都度、恋もつ照会業務により照会を行い、当該事案の加害者に係る過去の取扱状況や、加害者が他の都道府県において、恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案の当事者となっていないかどうかについて確認を行うこと。
イ 関係場所が他の都道府県にわたる事案への対応
(ア)事案認知時の対応
恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案のうち、事案に関係する場所が他の都道府県にわたるものについては、関係都道府県警察と連携を密にして確実に情報を共有すること。この場合において、当該事案の処理に当たってストーカー規制法等に基づく行政措置を講ずる必要を認めるときには、関係都道府県警察と協議の上、当該措置の実施に向けた調整を主導的に行う主管警察本部を決定すること。
(イ)連絡担当者の指定
関係都道府県警察との情報共有は、生活安全部少年・人身安全対策課室長補佐(人身安全第二担当)を連絡担当者に指定し、原則として緊急時も含め連絡担当者相互間で行うこと。
連絡担当者は、関係都道府県警察の連絡担当者と密接な連絡体制を維持するものとし、特に、加害者が所在不明である等の兆候情報を認知した場合は、関係都道府県警察の連絡担当者全員に対し、即時にその旨を連絡すること。また、他の都道府県警察の連絡担当者から連絡を受けた場合は、関係警察署において即応態勢を確立するなどにより対応すること。
(ウ)被害者等の立場に立った対応
ストーカー規制法による警告等については、当該警告等に係る申出をした者(以下「申出人」という。)の住所若しくは居所若しくは行為者の住所等の所在地又は当該行為が行われた地を管轄する警察本部長等又は公安委員会が行うこととされている(ストーカー規制法第14条第1項及び第3項)ところ、警告等の申出があった場合には、申出人の保護に最も資するのはどこかという観点から、警告等の主体を決定すること。また、関係都道府県警察との情報共有を徹底し、被害者等の保護に間隙を生じないようにすること。
被害届の受理に関しては、犯罪捜査規範(昭和32年国家公安委員会規則第2号)第61条において、その届出に係る事件が管轄区域の事件であるかどうかを問わず受理しなければならないとされているところ、被害の届出の申出を受けた場合は、被害者の便宜を十分に考慮し、関係都道府県警察と相互に連絡するなどして適切に対応すること。
(3)関係機関との連携
恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案の兆候をいち早く把握し、被害の予防・拡大防止を図るため、関係行政機関、民間団体、学校等と緊密な連携を確保すること。
3 教養の徹底
(1)全ての職員に対する教養
恋愛感情のもつれに起因する暴力的事案は、相談窓口のみならず、110番通報や被害届の受理といった種々の警察活動の過程で認知し、対応する可能性があることから、全ての職員に対して、1及び2で定める事項についての教養を実施すること。加えて、特に当直責任者に対しては、警察署長及び本部対処体制への速報の要領等に関する教養を徹底すること。
(2)担当者に対する教養
警察本部及び警察署においてストーカー事案又は配偶者暴力事案を担当する者に対しては、それぞれストーカー規制法又は配偶者暴力防止法に関する教養を行い、特に、この例規通達で定める事項について周知徹底すること。また、恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案対策に係る専科教養を鳥取県警察学校において実施するなど、この種事案に対して、より迅速かつ的確な対応が図れる教養の推進にも配意すること。