鳥取県には現在、18の日本酒蔵があります。各蔵が造る日本酒は個性豊かな味わいが持ち味。澄み切った水と空気をそのまま伝えます。新年は地元の素材を使ったおいしい料理と一緒に極上の純米酒を楽しみながら、鳥取の魅力を味わい尽くしましょう。
生き様伝える生酛造り
鳥取の酒蔵は米と水だけで仕上げる「純米酒」の製造割合が高いのが特徴。中でも、伝統的な酒造りの方法である「生酛造り」に取り組む蔵が多くあります。
生酛造りとは、自然にある乳酸菌の力を利用して、酵母が活動しやすい状態を作り、アルコール発酵を促進する昔ながらの製法。「造る人の生き様や空気、各蔵の味が出る」と、鳥取市の老舗酒屋、谷本酒店社長の谷本暢正さんは生酛造りの魅力を語ります。
失敗するリスクが高く、手のかかる生酛造りに多くの酒蔵が取り組むのは、酒造技術指導の第一人者として知られる上原浩さん(1924年から2006年)の存在が多大な影響を与えています。
地酒が持つ可能性
鳥取県工業試験場勤務を経て、県酒造組合連合会技術顧問、蔵元交流会常任顧問、日本酒サービス研究会最高技術顧問を務めた上原さん。漫画『夏子の酒』に登場する酒造技術者・上田久のモデルとしても知られます。
「酒は純米、燗ならなお良し」という名言で知られ、「淡麗辛口」が主流だった当時の業界で「芳醇旨口」の純米酒と、燗に耐えられる「味吟醸」造りを呼び掛けました。
親交のあった谷本さんは「ものの本質を大切にしてほしいというのが上原先生の思い。地域性が出る純米酒を造ることが人を引き寄せ、鳥取の個性を伝えることにつながります」と、地酒の持つ可能性に期待を寄せます。
純米酒製造を呼び掛け、鳥取の酒造りの道筋を示した上原浩さん(家族提供)
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