鳥取県内の高校生が主体となって活動している「高校生旅行社」。その「高校生旅行社」が企画した体験型ツアー「ほっとりツアー」が実施されました。「ほっとりツアー」とは、高校生旅行社のメンバーが考えた身体も心もほっこりあたたかくなる鳥取のツアーのことです。ツアーでは、全国からツアー客を集い、県西部から県東部まで巡りました。その模様をお伝えします。
初日の目的は『世界一あたたかい鍋をつくろう』。鳥取ならではの珍しい食材を調達し、鳥取でしか作ることができない鍋を食べるという企画です。
早朝米子駅に集まり、あいさつも早々にバスに乗り込みます。バスの中では高校生たちから、今回のツアーについての説明がありました。緊張した面持ちの高校生たち。たどたどしい様子ですが、一生懸命さは伝わります。
最初に行ったのは大山町の国信地区。ここでは『豆腐小屋』を見学しました。国信地区では『ご近所豆腐』という活動をされています。『ご近所豆腐』とは、お家で食べる豆腐を、代々受け継いできた方法でご近所さんが集まって作る活動です。昔から大豆作りが盛んな大山町で始まった豆腐作りですが、国信地区では一度途絶えてしまいます。平成に入って地域の人の協力があり復活したそうです。こちらの『豆腐小屋』は開放されており、地域の人なら誰でも使用できるそうです。注文が入ると、地区の人が集まって豆腐を作ります。この地区の人はお店でほとんど豆腐を買うことはないそうです。
お話を聞きながら『豆腐小屋』で作られたできたてほやほやの豆腐を食べさせてもらいます。豆腐は大豆の味そのままの濃厚で素朴な豆腐です。大豆は大山産、もちろん水も美味しいと定評のある大山のものです。しょうゆなどの調味料も手作りだというから驚きです。
豆腐小屋の横にあるお宅でご主人の話を聞きながら豆腐を食べさせてもらうと、なんだか親戚の家に上がらせてもらったような気持ちになります。豆腐のおいしさとご主人の笑顔にほっこりしました。
次に、グループに分かれて、鳥取和牛のホルモン、採れたての白ネギ、天然のジネンジョなどを調達します。
白ねぎのグループでは、畑に植わっている白ねぎを収穫しました。鳥取県西部の特産品と言えば白ねぎです。県西部にある米子市のマスコットもねぎのキャラクターとなっているほどで、鳥取では盛んに育てられている作物です。
バスを降りて、畑に到着すると一面にねぎ畑が広がっています。今回白ねぎの収穫を教えてくれたのは鳥取県大山町の若手農家グループ「D’sプランニング」さんです。社員の平均年齢は27歳。代表の逢坂さんが『農家のイメージを変えたい』という通り、みなさん今時のおしゃれな若者そのもので、とても農家の方とは思えません。
そのお兄さんたちに教えてもらいながら収穫していきます。ねぎはお店で見かけるものよりも、かなり大きく立派なものです。参加したメンバー全員が初めての白ねぎの収穫体験。大きなねぎに最初は戸惑いましたが、丁寧な指導のおかげですぐに慣れます。わいわい話をしながら、楽しく作業すると、あっという間にたくさんのねぎが収穫できました。どのねぎも大きくて重量感があります。
収穫したねぎをその場で焼いて、食べさせてもらいました。外の皮をむいて食べると、驚くほど甘い。野菜の甘さというより、果物の甘さに近いかもしれません。これにはツアー参加者もびっくり。「やわらかく甘い白ねぎに、今までのねぎのイメージが変わりました」と話をする人もいました。
その後、「日光しょうが」、「布勢の名水」を手に入れ、流し雛の町として知られている鳥取市用瀬町へ。いよいよ今回のツアーで調達した食材や用意された鳥取県産の具材を使って世界一あたたかい鍋をつくります。助っ人に用瀬地区に住んでいる方たちも入ります。ツアー参加者は一緒に様々な体験をしているだけあって、鍋を作る頃にはチームワークが抜群です。初めて出会ったのに仲間意識さえ生まれているから不思議です。
収穫したジネンジョをすりおろした時には、餅のような粘り具合に歓声が上がりました。こんなに弾力があるジネンジョは初めてです。また、用意された「ばばちゃん」という魚で盛り上がります。鳥取では「ばばあ」と呼ばれているタナカゲンゲという魚。県外の人にはなじみがないかもしれません。地元のおばちゃんたちも一緒に和気あいあいと調理は進みます。
ここでしか食べることができない鍋の完成です。みんな笑顔で話をしながら、鍋を囲みます。大満足の一日になりました。
食事の最中に参加者の方にツアーについて聞いてみると「頑張っている鳥取の高校生を見てエネルギーをもらいました。」「ツアーでは行きたくても行けないようなところに行くことができ貴重な体験をしました。」「美味しいとはこの鍋のことをいうのだろうと思います。」「今までで一番気持ちがあたたかい旅行になりました。高校生の笑顔が素敵でした。」と語ってくれました。
ツアーの最中に高校生の案内が頼りなく見えたりすることがあります。しかし一生懸命さが伝わってくるので、温かい目で応援したくなります。たどたどしい高校生がやっていることで、逆に参加者同士の絆が深まり、コミュニケーションが生まれ、それが寛容さと余裕につながります。
今回のツアーでは参加者が「自分もツアーを作っているひとり」という一体感を感じことができ、受け身ではなく積極的にツアーを楽しむことができました。これらはプロのツアーコンダクターではない高校生だからこそ生まれることです。
高校生旅行社の活動は、観光であり、教育であり、住んでいる人たちが鳥取の魅力を再発見する場であり、文化の伝承、食育など、様々な側面があります。一つのツアーが一石五鳥にも六鳥にもなる活動です。
高校生たちはこれ以上ない学びの場となるでしょうし、鳥取に住んでいる大人たちも鳥取の文化・食を他県のツアー客に体験してもらうことで、住んでいる町の魅力を誇りに思えるようになります。また、県外のツアー客は楽しく他では経験できない鳥取を体験することができます。高校生だけでなく、関わった大人たちも学ぶことが多いツアーとなりました。
今回のツアーは、鳥取県の有名な観光地には行きませんでしたが、鳥取の魅力がギュッとつまったツアーでした。「鳥取って、旅行ツアーってこんなものでしょ」と、分かったつもりになっているイメージから、ツアー参加者が自ら動き、考えることによって、新しい鳥取の発見、新しいツアー体験となりました。
鳥取を都会の鋳型に入れようとすればするほど、地域の良さがなくなるような気がします。大切なのは自分たちの住んでいる場所を過小評価しないということです。ありのままの鳥取。それこそが今求められていることではないでしょうか?