【事業内容】
アートを介したコミュニティづくり交流拠点の設置、アーティストと地域住民との交流プログラム、市民参加型の地域資源再発見研究プログラムの実施
アートから新しいことが見つかるプロジェクト
鳥取県は今、アートを絡めた文化活動に力を入れている。鳥取のまちなかでもアートをより身近に触れられる場の1つとして元個人病院だった建物を活用するアート・プロジェクト「HOSPITALE(ホスピテイル)」がある。
HOSPITALEとは、後期ラテン語で「来客のための大きな館」を意味し、外来者を迎え入れるhost。宿泊施設のhotelや病院を表すhospital。また、もてなしを意味するhospitalityの語源とも言われている。今回、鳥取県立博物館の学芸員として働きながらもこのプロジェクトの運営や企画などを行っている赤井あずみさんにお話を伺った。
HOSPITALEの立ち上げは2012年の3月。当初は一回限りのイベントとして展覧会を企画した赤井さんは、アートを身近に感じることのできる継続的な場所づくりが必要だと考え、徐々に活動の幅を広げていった。
2017年現在の主な活動内容は、アーティストを招き、旧横田医院をスタジオに滞在制作を行うアーティスト・イン・レジデンスプログラム、アーティストユニット“生意気”たちと共にコミュニティのための庭造りを行う「庭プロジェクト」、キュレーターやアーティスト、コーディネーター、ジャーナリストなど国内外のアートの現場で活動する人を招き、それぞれの実践についての話を伺うレクチャープログラム「はじめてのアートプロジェクトトーク・シリーズ」、“読まなくなったけど捨てられない本”を集めて、公開する「すみおれ図書館」と、交流カフェ「Manu」の運営など、多岐にわたっている。
赤井さんは学芸員という仕事の中で、美術館や博物館といった既存の文化教育施設の活動では、アートやアーティストと関わる機会が少ないと感じていた。同じ時代を生きるアーティストたちの視点を共有することは、人々の日常や生活を捉え直し、固定概念や先入観に縛られず各々が持つ興味や関心を基に活動していくことを可能にする。
つまり、このひとりひとりの「創造性」の高まりこそが、未来を作り、よりよい地域を作っていくことにつながる。そうした人材を育成することが、今の地域社会には必要だ、と彼女は考えている。
今回、日本財団の支援をもとに立ち上げられた3つのプログラムは、HOSPITALEのこれまでの活動をさらに展開・発展させるものである。
そのうちのひとつである「8mmフィルム・アーカイヴ・プロジェクト」は、家庭に眠る8mmフィルムの収集・公開・活用を行うもので、1年間で数十本のフィルムが発掘された。これをもとに開催された上映会には、これまでの活動では繋がりの薄かった地域の方々からの情報提供や協力があり、二度にわたる公開上映会は多くの参加者で賑わった。
2つ目は、これまでの活動を紹介するプロジェクト・ルームの設置である。これにより進行中のプロジェクト・プランや活動アーカイヴを常時公開できるスペースの準備が進み、鳥取市のまちなかにおける文化の拠点化への大きな一歩となった。
3つ目は、公募プログラムと人材育成プログラムが新たに開始され、活動に広がりを見せている。
「アートは美術館やギャラリーにだけにあるものではなくて、社会や生活と共にあるものです。
会社や学校、家庭といったルーティンな日常において、見過ごしてしまっているものに光を当てて、その価値を問いかける。
アートだけではなくて、庭も本も8mmフィルムの活動も、いつもと違った視点を与えてくれるきっかけです。
たくさんのものの見方を知ること、そして未知の事柄に対して開いておくこと。そういう実践をHOSPITALE でやって行きたいと思っています。
開いておくというのは、例えば自分の興味から新しいことにチャレンジしたり、意見の異なる他人を認め、受け入れたりすることです。そういう人たちが住む寛容な地域に、私も住みたいと思う。」と赤井さんは締めくくった。