【事業内容】
鹿野小学校4年生と鹿野中学校1年生をターゲットに、演劇を通じて自己表現力やコミュニケーション能力をはぐくむワークショップ「トリジュク」を実施している。子供のころから、自己肯定感をもって周りと協力し、何かを作り出す力(=生きる力)をつけることで、ひとりひとりの能力が発揮される社会を目指す。
「学校で、先生に言われて一番子供たちが固まってしまう言葉は何だと思いますか?」
「それは、『自由にやってごらん』っていう言葉なんですよね。『自由ってどういうこと?』って。頭の中が全然自由にならない。学校は本来そう言うところじゃない。自由って言った時に、それぞれが本当に自由にアイデアを出して、何かしらを生み出すことができる場でなくちゃいけないんだ。」
現在の日本では、小学校から中学校までの9年間を義務教育として定め、社会に出るために様々な勉強をします。しかし、そこで教わることは、すべて「答え」のあることです。だからこそ、子供たちは「自由にやってごらん」という言葉に戸惑ってしまうのだと中島さんは言います。
さらに、「自由」が苦手な理由としてもう一つの側面があります。
「日本の子供は自己肯定感がすごく低いんです。自分がいいところがあるって思えないんです。自分はダメな人間だって。でも、みんなそれぞれいいところがあって、いろんな可能性の芽がある。それを伸ばしていけばいいじゃない。勉強ができるならそれを伸ばせばいいし、勉強が苦手な子は別のところで伸びていけばいい。小さい尺度でみないで、いいところを伸ばしていこうよって思うんだよね。」
トリジュクでは、子供たちが自由に考え発言し、自分を認めてあげられるような仕組みを取り入れています。
「ワークショップの後には、振り返りの時間を設けて、その時感じたことを、テンショングラフというものと一緒に書いてもらっています。何がきっかけでテンションが上がったか、何がきっかけで下がったか。翌日それを先生が全員の前で、『いい部分』を共有してあげるんです。そうすることで、次はより良くしたいという思いが生まれる。普通の学校では振り返りというと反省をして悪いところを見てしまうけど、ここではいいところを言うんです。それで、自分を認めてあげて、もっとやりたい!って気持ちを引き出してあげる。そうするとどんどん能動的になって、うまくいくようになるから、自分のことも認めてあげられますよね。同時に他の子のいいところも発見できるようになる。」
トリジュクは、自分と他人の「良さの発見」を通してもっと積極的に自分を表現し、認めてあげるプロセスでもあるのです。
このように、自分自身を認めてあげて、答えのないことに対しても自分の考えを自由に表現できることがこれからの社会には必要になってくると中島さんは語ります。
「今の社会に求められている力は『生きる力』なんだよね。今までは人のまねをして言うことを聞くことが重要だった。でも今は、自分たちで自分たちの社会がどうあるべきかを考える時代。答えのない場所で何かを作り出す時代です。だから、もっと個人のオリジナリティが必要になってくるし、周りの人と掛け算して新しいものを作り出すことが大切になってくると思うんだよね。それらが、『生きる力』になる。」
トリジュクで最終的に目指すものは、子供たちが「生きる力」を身につけ、自分の生きる社会がいかにあるべきかを自分で考え、行動していける大人が構成する社会です。
「おそらく、これからの時代はどんな社会がいいかを考えるところから始まるんだよね。だから、最終的にどんな社会を目指すのかと言われれば、『自分ごととして、どんな社会をつくるかを考えられる人が構成する社会』になるのかな。そのために、自分に自信をもって発言し、行動し、周りと一緒に社会をつくっていくことが大切だよね。自分たちがよりよくしようと積極的に関わっていけるような大人になってほしいです。」
現段階では三年間を目標に活動していますが、「三年たった後は、他の授業の中でも、演劇の手法を使って理解を深める取り組みをしたい。」と語る中島さん。三年後も残るような取り組みをして、鳥取という地方でも質の高い教育ができるということを証明したい、という思いもあります。
トリジュクを通して、実際に子供たちの様子も変わってきており、学習発表会の準備の際も自ら課題を発見し、さらに良くしていこうと積極的に動けるようになってきています。新たな時代を作っていく子供たちに「生きる力」を演劇という手法を通して伝える中島さん。穏やかで柔らかい雰囲気の中にも、子供たちについて語るあつい眼差しにはこれからの教育の在り方を問い直すような強さが感じられました。2018年春に開設される鹿野学園表鷲科が楽しみです。