肝臓にできたがんを治療する方法の一つに動脈塞栓術があります。これは、がんに血液を送っている血管内に塞栓物質といわれるゼリー状の薬を注入して栄養の供給を絶ち、がん細胞を死滅させる方法です。通常は、その効果を高めるために抗がん剤を併せて注入します。動脈塞栓術を行うためには、薬を肝臓まで運ぶ細いプラスチックのチューブ(カテーテル)が必要です。カテーテルは、足の付け根の動脈に細い針を刺し、その穴を通して血管内に挿入します。針を刺す前には局所麻酔を行いますのでカテーテル挿入の痛みは注射程度の軽いものです。動脈は全身どこにでもつながっているためカテーテルは容易に肝臓の中まで入ってゆくことができます(図1)。
がんの個数が限られている場合は、カテーテルの中にさらにさらに細いカテーテル(マイクロカテーテル)を挿入し、一つ一つを選択的に治療することも可能ですが(図2)、この治療法はむしろ肝臓内に多数のがん病巣がある場合にその真価を発揮します。仮に100個をこえる病巣があったとしても、肝機能に余力があれば一度にすべての病巣を治療対象とすることもできます。しかし、手術やラジオ波焼しゃく療法(RFA)などの局所治療に比べると一回あたりの治療効果が劣るため、多くの場合は数週~数ヶ月の間隔をあけて繰り返し行う必要があります。
がんが肝内の血管や胆管内に広汎に進展してしまっている場合は、塞栓術のかわりに抗がん剤の注入(動注)のみ行う場合もあります。塞栓術よりもさらに1回あたりの効果が弱いため1~2ヶ月毎に何度も繰り返したり、カテーテルを体内に埋め込んだりして、繰り返し行う必要がありますが、抗がん剤が著効した場合は完治することもあり、当院では積極的に行っています。
治療後はカテーテルを抜き、出血しないように足の付け根を圧迫します。従来はそのまま一晩ベッド上で安静にする必要がありましたが、カテーテルの改良により最近では術後3~4時間程度で歩行できるようになってきており、術後の苦痛軽減に一役買っています。肝動脈塞栓術の副作用として一過性の腹痛や悪心、術後の発熱などがありますが、いずれも対症療法で対応可能です。抗がん剤を使用しても髪の毛が抜けたりするようなことはありません。
さらに詳しくお知りになりたいかたは、日本IVR学会のホームページ(
http://www.jsivr.jp/)の「肝臓がんに対する動脈塞栓術(TAE)とは?」を参照ください。
比較的大きな腫瘍や、単発あるいは少数の腫瘍の場合には肝切除が選択されます。残された肝臓の機能が十分でないと手術後に肝不全になるため、手術の前にさまざまな肝機能の検査を行い、安全に肝切除が行われる基準を参考にしながら、適応や術式を決定します。