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昭和54年(1979)9月22日、智頭町波多で採集

語り

 昔あるときに、高いところにお寺があって和尚さんと小僧さんが住んでいたそうな。寺の後ろは大きな山があり、そこには大きな栗の木があって、風が吹くとその実がいくらでもぽたぽたぽたぽた落ちるそうな。それで小僧さんが「何でもまあ、栗拾いに行きたい。」と言うと、和尚さんは「鬼婆がおるけえ、この裏の方へは行かれん。」と言うが、小僧さんがどうしても行きたいと頼むので、和尚さんもしかたなく、お札を三枚渡してやって「危ないおりには、これを頼むじゃぞ。」言って出したそうな。
 小僧が行ってみると、たくさん大きい栗が落ちているので、それをいくらでも拾って食べていると、とても器量のいい小さな婆さんが出てきて「小僧さん、小僧さん、こっちへ来てみんさい。なんぼうでも栗があるわ。」と言うので、おばあさんについて行くと、ほんとうに大きな栗がいくらでもあるので、拾って食べていたら、いつの間にか日が暮れてしまって、帰れなくなってしまった。
そうしたら、おばあさんが「あそこに小さい家があるけえ、泊まって、明日の朝いぬるがええ。」と言う。
 小僧もしかたなくついて行くと、おばあさんは栗を作って食べさせたり、ゆでて食べさせたり、腹いっぱいになってしまった。
 小僧が眠たくなってきたら、おばあさんは布団を持ってきてくれる。疲れているのでぐっすり眠ってしまったが、夜中に小僧がふと目を覚ましたら、雨垂れが「小僧や 小僧や 婆さんの面(つら)ぁ見い 小僧や 小僧や トンツラ トンツラ。」と言っている。小僧はそれを聞いて、ひょいっとおばあさんを見たら、おばあさんはいつの間にか鬼婆に変わっており、頭には角が二本出ているし、口は耳まで裂けているし、さらに口からは紅のような舌を出している。「恐ろしや…やれこれ。」と思って、小僧は起き上がって帰ろうとすると、鬼婆が聞いてくる。

「何すりゃあ。」

「便所へ行って、小便が出したい。」
「小便が出したけりゃ、そこへひれ。」
「こんなとこへは、もったいのうてひれん。」
「ほんなら、まあ、行け。」と言って、鬼婆は小僧の腰に綱をつけて便所に入れ、外で待っている。
 小僧は恐ろしくなって、和尚さんにもらったお札を一枚出して綱にくくりつけて、お札に「『まんだ出る。まんだ出る』言え。」と頼んで、窓からとんで出て一生懸命に逃げたそうな。内では
「まんだ出んだか、まんだ出んだか。」と鬼婆が言えば、
「まんだ出ん、まんだ出ん、まんだ出ん………。」とお札が言うが、あんまり長くて不思議に思った鬼婆が、開けてみたらお札に綱が結びつけてあり、そのお札が言っている。「こりゃまあ、いけん、ほんにほんにだまされたか。」と追いかけたところ、鬼婆は足が早く、もうほとんど追いついたかと思ったとき、小僧はもう一枚のお札を後ろへ投げて「砂山出え。」と言ったら、とても大きな砂山ができたそうな。鬼婆がその山に上がると滑って落ちる。上がるとずるっと落ちる。なかなか上がれなかったが、それでもやっと上がって向こう側へ下り、また小僧さんに追いつきかけたところ、小僧さんは最後のお札に「大きな川を出してくれ。」と頼んで後ろに投げたら、また大きな川ができて、鬼婆はその川がなかなか渡れなくて、あっちへ行ったり、こっちへ行ったりしているうちに、小僧がやっと寺へ帰ることができたそうな。
それで「和尚さん、今もどった。和尚さん、今もどった。」と言ったけれど、和尚さんは知らん顔をしていてなかなか戸を開けてくれない。「今、鬼婆がここを通りかかるけえ、早う早う。」と言って、戸をやっとのことで開けてもらい、小僧さんは大根壷の中に隠してもらい、和尚さんはその蓋をピシャンと閉めたとき、鬼婆がやっと川を渡り終えてごとごと入ってきたそうな。「今、ここへ小僧が入ってきたふうなが、小僧はどこへおりゃあ。」「ふん、小僧は来りゃあせん」。和尚さんは、そう言いながら囲炉裏(いろり)にいっぱい餅を焼いて食べていたそうな。

「おお、何ちゅううまそうな餅じゃ、うらにもそれえ一つ呼んでごせえ。餅は大好物じゃ。」

「うん、そりゃあ呼んだる、呼んだる。そげな餅どもはうちゃ何ぼうでもあるけえ。それより先、おまえもこがいな鬼婆いうぐらいのもんじゃけえ、化けることはできよう。」
「うらも化けるし。」
「そんなら、おまえから先化けてみい。」
「ほんなら先、化ける。」
「高つく、高つく、高つく、高つく……。」
 和尚さんがそう言われていると、鬼婆は高くなって天井までつかえてしまい、もうそれ以上は高くなれなくなったので、今度は、「低つく、低つく、低つく、低つく………。」と言っていると、本当に小さくなって豆ぐらいになってしまったそうな。するとそれを見ていた和尚さんは、焼けて熱くなった餅を二つに割って、その豆ぐらいになった鬼婆を、餅の中にぴっと挟んで入れて、自分の口の中へ放り込んでがきがきがきがき噛んで、食べてしまったそうな。
 それからは鬼婆は出ないようになったとや。
 そればっちり。
(伝承者:明治40年生)
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解説

   この「三枚のお札」は昔語りの中に位置づけられている。主人公が何者かに追いかけられる一連の話が、ここには網羅されており、魚屋が山姥から追いかけられる「牛方山姥」とか、母親を山姥に食い殺され、さらに兄弟も追われる「天道さん金の鎖」などがそれである。
 ところで、この「三枚のお札」では、和尚さんの言いつけを聞かずに、誘惑に負けて栗を拾いに出かけた小僧さんが、鬼婆の化けたおばあさんに、危うく食べられそうになりながら、危機一髪、もらった呪宝の三枚のお札を使って、鬼婆の魔手から脱し、和尚さんの機転でその鬼婆も退治されるという物語である。大原さんのみごとな語りを想像しながら、情景を思い浮かべて語ってみていただきたい。聞き手に歓迎されること請け合いである。


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