語り
昔、あるときになあ、おじいさんが畑を打ちい行ってなあ、そこで、
「何じゃで、ばあさ、ばあさ、うらはなあ、畑を打ちい行って、そして、何じゃけえなあ、座っとるけえ、それに糊を煮て頭からかぶしてごせえや。そげしたら、ほん、お地蔵さんのようなけ、そげしたらなあ、何じゃけえ、みんながええもんすえてごすけえ、そじゃけえ、お地蔵さんになってみるけえ、こぎゃああ難儀なじゃけえ。」
「よしよし、おじいさん、そら、ほんなら、まあ、そげえするけえ。」言うて、
「ほんに難儀なじゃけえな、おじいさん。ほんにお地蔵さんの真似をしても、そいでも食べて行かにゃいけんじゃけえな。」言うて、おばあさんが、糊ぅ煮て、そぎゃして糊を頭からずぼっとかぶしたら、ずっとおじいさんの頭から、真っしれえ…なって、そうしたところが、ずっとサルがやっと出てきて、
「おい、何じゃ、ここに白子地蔵さんがおられると見え…」
「まあ、白子地蔵さんがおられるけえ、ほんに何じゃわい。何ぞかんぞええもんを持ってきてすえよう。」言うて、あれこれあれこれと持ってきたいうて。
まあ、サルたちは、ほんにええもんを…食べるもんから、お金からいっぺえ持ってきてすえるもんじゃけえ、そしてまあ、何じゃった。
それから、おじいさんはサルもいぬるししたけえ、まあ、晩になったけえ、そいで、お金をまあ、みんなもろうて、そがして、まあ、もどって、
「おばあさん、おばあさん、地蔵さんのおかげがあった。ほんに、こげんよけい、いいもんもろうて。餅も菓子も、ほんに何じゃ、お金もよけえ、サルがすえてごしたわ。」言うて喜んで、二人がまあ、喜びよったところへ、隣のおばあさんが聞いて、
「うーん、そげなことか。あそこはだいたいお地蔵さんに信仰しよったけえじゃ。ほんにおかげがあったじゃ。」言うておばあさんが話いたら、「そうか、そうか、うらもお地蔵さんに、ほんに信心してみよう。」言うて。
「おじいさん、おまえ、行って座っとれ。ほんなら、糊を持って行ってかぶせるけえなあ。そいから、信心するけえ、お地蔵さんに。まあ、お地蔵さんに何でも信心するじゃ。」言うた。
そして、おばあさんが、じきい、信心はちっともせんのに、そけえ行っておじいさんを座らして、それから糊を持って行って、頭からかぶらしたところが、ほんにお地蔵さんのようにそれがなって、そいからまあ、サルが出てきて、ええもんを持ってきて、また、
「白子地蔵さんを、昨日のええもんをみんな平らげておられるわ。今日もすえよ、すえよ。」言うて、よけえことお地蔵さんにすえて、そげして出ぁたら、そうしたところが、まあ、何ぼうでもそげしてすえおったら、
「お地蔵さんじゃ、お地蔵さんじゃ。」言いおったら、そのお地蔵さんがまあ、ほんに欲ばりじいさん、気をせったか、何をしたか、つい、ついおかしゅうなって、ヒュッと笑うたら、
「え、こりゃ、お地蔵さんじゃねえ、こりゃ人間じゃぞう。」(サルが)言うて。
「こりゃあ、人間じゃ、人間じゃ。こりゃ人間じゃ。お地蔵さんが、そげえ食いはできん。これまでそげぇに食いおりゃできんに、昨日のええもんもみな食うとるし、みな、銭こうもみな持っていんどるし、こら、人間じゃぞ。」言うようなことだった。
そいから、「おい、葛(かずらぁ)立てえ葛立てえ。」まあ、じいさんはついクックッと言うて、つい笑ったら、口が出る。まあ、何するじゃろう、葛立ってと思うて、眠ったときから葛を立って、おじいさんをがんがら巻きいして、それからまあ、サルのことじゃけえ、結ぶすべを知りゃあせず、
「おい、鼻の穴が開いとうだけえ。」鼻の穴へ入れて結ばっと鼻の穴へ葛つっこんだら、鼻からずっと血がだらだらして出だしたら、サルは血がまことにきょうといもんじゃけえ、
「そーりゃ、血が出だいた。血が出だいた。」言うて、ごっご恐れて、そぎゃしてけえ、ずっとおじいさんをがんがら巻きいすられて、血だらけになって、そがあして命からがらでもどったとや。
そればっちり。(語り部:明治40年生まれ)