語り
昔、あるところに、正直なおじいさんとおばあさんとが暮らしていたそうな。
ある日、おじいさんが、「山へ畑打ちに行く」と言うものだから、おばあさんが、握り飯をしてやった。
おじいさんは昼まで元気を出して畑を打った。それから昼飯を食べようと思って、風呂敷をほどいたところが、ころころころころとむすびが転ぶものだから、
「まあ、どこまで転ぶじゃろう。まま待て、まま待て」と言って、ずっと追っかけて行くけれど、むすびはもう何を言っても、いくらでも転んで転んで、その小さい穴へ転んで行った。
おじいさんもむすびが食べたいので、「まま待て、まま待て」と言って、むすびへついて降りていたところが、広いところがあった。そしてお地蔵さんがそこにまつってあったが、その前へ、ちょんと、そのむすびが止まった。
それから、そのむすびを見てみると、細(ほそ)い穴だったので泥まみれになっている。
おじいさんはそれから泥をきれいに何回もふるい落としても、やっぱりついているので、泥のついたところは自分が食べて、それから中の泥のちょっともつかんところばっかり、そのお地蔵さんに供えて、「お地蔵さん。お地蔵さんも腹がへろう。あがりましてつかあせえ」と言って、お地蔵さんに出してあげた。
そしてまた泥まぶれのところを自分が食べて休んでいたら、お地蔵さんが、「おみゃえは感心なじいじゃなあ」と言って、「わしの膝へ上がれ」「もったいない。何で膝なんかに上がれるだい」「もったいないことはないけえ、上がれ」と言われるので、それから、おじいさんがお地蔵さんの膝に上がると、今度は、「肩に上がれ」と言う。
「そんなもったいないことができるもんか」と言ったら、「もったいないことはない。上がれ」と言われる。それから肩に上がったところが、今度は、また、「頭に上がれ」「そりゃ、よう上がらん。それはお地蔵さん、よう上がりません」「わしの言うようにするじゃ、おまえは正直なええじいさんじゃ、上がれ。じい上がれ」と言われるものだから、それでお地蔵さんの頭に上がったら、そこで、「今なあ、こうして腹がへっとるのに、にぎり飯をくれた。そのお礼に笠ぁ一つやるけえ、これ、笠ぁかぶってじっとしとれ。こな広いところに鬼がよけえ出てくるけえ、そいで、こいつらぁが、銭いっぺえめぇて丁半(バクチのこと)をするけえ」とお地蔵さんが言うものだから、おじいさんも、「そんならまあ」と言うったそうな。「そしてなあ、銭をいぺえまいて、バクチをしょろうから、そいじゃけえ、鶏の真似をするんじゃで」と地蔵さんが言われた。
そして、「ええ加減な時期いなって、鬼が金(かね)をいっぱいまいたおりに、羽ばたきの音ををその笠でカサカサカサカサカサカサカサカサさせるじゃで」とお地蔵さんが教えてくれた。
おじいさんが地蔵さんの頭の上へ上がっていると、本当に赤鬼や青鬼や黒鬼や一本角の鬼や二本角の鬼や、いっぱい来て、それから、その広いとこへ輪になって、銭をいっぱいまいて、そうしてみんなでおもしろそうに丁半をしだした。
それから、おじいさんは「このころだ」と思って、羽を笠にこすってカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ……と音をさせたら、鬼たちは、「ありゃ、何じゃろう。カサカサいうが、こら鶏、鶏じゃあないか」「こりゃ鶏じゃ」「こりゃ鶏じゃで」と言いだしたそうな。
それからおじいさんが、ずっとコケッコー、コケッコー、コケッコー言っていたら、
「そりゃー夜が明けた。夜が明けた。もういなにゃいけん」と言って、鬼が全部帰ってしまったそうな。お地蔵さんは、「にぎり飯をもうたほうびに、あのお金をおまえ、みんなさらえていね」と言われた。
それからおじいさんは、そろりそろりと、お地蔵さんの肩に下り、膝に下りてして見ると、大判小判がいっぱいあったので、おじいさんは笠を置いといたまま、そのお金を全部もらってもどっったそうあ。
そうして、おばあさんに、「まあ、こぎゃこぎゃだった。おばあさん」と話したら、おばあさんも喜んだって。
そうしたら、その晩に隣の欲ばりじいさんとおばあさんが風呂に入りに来たから、
「おばあさん、なんじゃ、こぎゃこぎゃで、地蔵さんからよけえ大判や小判やお金をよけえもろうたんじゃ」言って話したそうな。
そうしたら次の日、隣のおばあさんが朝早くから起きて、そしてすぐにおじいさんにおむすびを作ってやったそうな。
それから、そこのおじいさんが畑を打ちに行った。隣のおじいさんは、昼にもならないのに、早くから、銭こほしいというところで、むすびをその穴に転ばないものを無理にころころころ……と転ばしたそうな。そうしたら細い細い穴があったので、そこを無茶苦茶にもぐりこませて、自分もすっかり泥だらけになって下りたそうな。
そうしたら、広いところがあって、そこにお地蔵さんがおられたから、そこでおじいさんは休んで、そうしていると、えらい目をしたから、おじいさんは自分も腹がへるし、むすびの皮をむいてお地蔵さんに、「お地蔵さんも腹がへったろう。お地蔵さんも食べんさぇ」。泥だらけのところをみんなお地蔵さんに供えて、そうして、中のよいところだけ、自分が食べたそうな。
それから隣のお爺さんは、「お地蔵さん、お地蔵さん、膝へ上がらしてつかあさい」と言って、お地蔵さんが上がれとも言われないのに、お地蔵さんの膝へ上がり、今度は、「肩へ上がらしてつかあさい」と言って肩へ上がり、今度は、「頭へ上がらしてつかあさい」と、前のおじいさんの言った話の通りにして、それから、笠を持って上がっていると、本当に青鬼やら赤鬼やら黒鬼やら角の生えた鬼やらいっぱいことみんな出てくるものだから、「そら、出た、出た、出た」と思って、喜んでいたら、鬼たちは、いっぱいに輪になっておいて、銭をまいて丁半をしかける。おじいさんはほしくてたまらないものだから、それから、笠をカサカサカサカサカサカサカサカサっとさせたら、「何じゃ、夜が明けたじゃろうかな」「ふん、夜が明けたかなあ」と鬼たちが言い出したそうな。 おじいさんが、「コケッコー、コケッコー、コケッコー……」と言っていたら、「ああ、やっぱり夜が明けた。何ちゅう今夜は早う夜が明けたなあ」と言って、鬼がみんな逃げてしまった。おじいさんは、こりゃまあ、銭がみんなもらえるわーと思って、それから、とんで下りて、そうして、その銭をみんな集めて、持って帰ろうと思っていたら、一人、鬼が、みんなから逃げ遅れたのが、近くの自在かぎに鼻がひっかかって、どうしようにも動かれないものだから、そいから、「おーい、おーい、おーい」と言って、みんなの鬼たちを呼びもどしたそうな。他の鬼たちももどって来て、「どげえなことじゃあ」と言って見ると一人の鬼の鼻へ自在鈎がひっかかっている。逃げられないから、それをはずしてやろうとして、みんながはずそうとしていたそうな。
そうしたら、そのおじいさんが欲ばりなので、早く鬼が帰ればいいのにと思っていたけれど、つい、おかしくなって笑ってしまった。「こりゃまあ、この糞じいめが。くそー、糞じいめが、鶏の真似をしたのは、この糞じいじゃ」と言って、鬼たちはおじいさんを捕まえてぶったり、打ったり、ひっかいたり、とてもひどい目にあわしたので、おじいさんは、もう顔もどこも血だらけになり、手足もひっかかれたり、打たれたり、蹴られたり、瘤だらけ血だらけになって、ようやくそこから抜け出してもどったと。
だから欲ばりはするものではないよ。そればっちり。
解説
明治40年生まれの話者による豊かな語りを楽しんでいただきたい。