昭和56年(1981)10月10日、鳥取市鹿野町鹿野で採集
歌詞
カラス カラス 勘三郎 親の家が焼けるぞ
早いんで 湯うかけ 水うかけ
解説
夕焼け空の中をねぐらをさして急ぐカラスのシルエットは、もともとカラスの黒い身体がいっそう黒く強調されて不思議なロマンが漂う。そのようなことからか、カラスは子供たちにはとりわけ親しまれた鳥といえるのではなかろうか。
ところで、大人では、「カラス鳴きが悪いと、近く死人が出る」とか「カラスがカーァと長く鳴くと近く死人が出る」など、どこか不吉な前兆を呼ぶ鳥とイメージされ、子供の感覚とはずいぶん違うようである。
一方、カラスは神の使いなどの霊鳥として意識されていることもある。島根県西の島にある焼火神社の主祭神である焼火の神が、その場所に収まられるのに、カラスが道案内をしたという伝説などがその例であろう。鳥は天界と人の世界を結ぶ存在として昔から考えられていた信仰が、カラスの両極端な言い伝えになっていったものであろう。
さて、この歌は夕焼け空をカラスの家の火事による炎と捉えている。類歌は各地でうたわれている。また、「親の恩を忘れるな」というものも中部から西部にかけて認められる。試みに岸本町久古のものを紹介しよう。
カラス カラス 勘三郎 親の恩を忘れんな(伝承者:明治45年生)
これなど現代の子供たちに少し味わってもらいたいような感じがする。
今ひとつ、「鉄砲撃ちが…」というタイプの歌が東部から中部にかけて認められた。岩美町田後の歌をあげておく。
カラス カラス 勘三郎 後先に鉄砲撃ちが来ようるぞ
早いんで 水かけ& 樽かけ ドーン ドン(伝承者:明治31年生)
以上あげた三種類のものが、おおむねカラスを見てうたう歌である。もちろんこれらはかなり昔からうたわれていた模様で、そのような資料もいろいろあるが、ここでは江戸の資料として一七九七年に出た太田全齋著『諺苑(げんえん)』に出ている類歌を、現代かなづかいに直して紹介しておく。
カラス 勘左衛門 うぬが家が焼ける
早く行って水かけろ 水がなくば湯かけろ
このように記されており、注釈として「夕方カラスが森に帰るのを見てうたう」となっている。
これは冒頭に紹介した鹿野町の歌に驚くほどそっくりではないか。今も昔も、子どもの発想は変わらないといえるのだろう。