語り
あるときに、ある家の中におばあさんとお嫁さんとが仲が悪くて、お嫁さんが外から帰るとおばあさんが出てしまうし、おばあさんが帰られたらお嫁さんが出てしまうしというように、少しも一緒にいないように仲が悪かったって。
お嫁さんは、「どがぁどして、おばあさんを殺さないけん。よう辛抱せん。」ということで、医者に相談に行ったのだそうです。
そうしたところが、医者が、「そがあなばばなら殺いてしまえ。おれが毒盛ったるけえ。その代わり早いことには死なんけえなあ。早ぁ死ぬりゃあ、おまえが毒を盛って死んだちゅうことになりゃ、罪ができるけえ、ええあんばいにして死ぬるやあにしたるけえ。」と言ったそうな。そうして毒を盛った薬をくれたそうな。
「こらぁ一週間ほど飲ませるなかいに、おばあさんをだいじにせえ。」と言って医者はお嫁さんに習わせたのだって。
お嫁さんはそれから、その毒を持って戻って、「一週間したらそのおばあさんが死ぬるだぁし、だいじにしとかなぁわれにまた罰が当たっちゃあいけん。」というところから、お嫁さんはおばあさんに魚を買ってきて食べさしたり、親切な言葉をかけたりと、とてもおばあさんをだいじにしたそうな。
そうしていたら、おばあさんが、「まあ、なしてうちの嫁はええようになっただらあか。だれが言い聞かせたもんだやら。こらまあ嫁がようにすりゃ、おれもようにせにゃいけん。」と思ったそうな。
それから、おばあさんはお嫁さんによくしなさるし、お嫁さんがおばあさんをだいじにすればするほど、おばあさんもよいおばあさんになっていかれたそうな。お嫁さんは、「こがぁにいいおばあさんなら殺されんわぁ。」という気になってしまったそうな。
それからまた、お嫁さんが医者のところへ行って、「おばあさんがなんとええおばあさんになりなはって、近ごろわにようにしてごしなはるしして、愛(いと)おして殺されぬけえ、何とかして毒の消える薬をつかはんせ。」と言ったそうな。
そうしたところが、医者は、「ああ、そんなら、やれやれ、早ことこれ持っていんで飲ましてあげれば、元気にならはるけえ。仲良うに暮らさにゃいけんけえ。」と言って、また薬をくださったそうな。
それでそのお嫁さんは、そのまま帰っておばあさんにその薬を飲ませたそうな。
本当は、初めの薬も毒ではなかったそうなけれど、医者が間に入って、病気にして薬をあげていたということだそうな。(語り部:明治30年生まれ)
解説
この話はよく知られており、各地で語られているものである。