語り
昔あるところになあ、おじいさんとおばあさんと細々と暮らしとったんだ。
それからいよいよ正月前になって、おばあさんが機を織って木綿を作って、
「おじいさん、この木綿を持って、町ぃ出て餅米やいろいろなものを買ぁてきなへ。」
って言ってそれを渡したのだって。
それで、おじいさんは木綿を持って町へ出たそうな。
だけどみな正月前でなかなか木綿を買ってくれない。
しかたがないから持ってもどっていたら、道端の方にお地蔵さんが寒そうにしておられたそうな。
その木綿をお地蔵さんの首へ巻きつけてあげて、そいから自分がかぶっていた笠をお地蔵さんにかぶらしてあげて、それからわが家へもどってきたそうな。
「おばあさん、もどったわ。」
「ああ、今日は何だか荷物が少ないやあななあ。」
おばあさんは言ったそうな。
「うん、町ぃ出たけどなあ、なかなか木綿はみなは買ぁてごしぇんし、みざま(見様)にならんにと思って持ってもどったら、お地蔵さんがあんまり寒げにしとんなはったけえ、木綿をお地蔵さんに一反、首に巻いてあげて、そいから寒いけえ笠もおれのやつぅかぶせてあげといてもどったわい。」
「まあ、餅米もないし何にもよう買わなんだけど、生きとりゃあお粥でも飲めりゃしすれるけえ、まあ、おばあさん、辛抱しようよ。」
「ああ、ええ、ええ、ええことだ。ええことをしなはった。お地蔵さんが喜びなはるわい。」
おばあさんもそう言って、そのまま寝ていたら、お地蔵さんが夢を見せられたそうな。その夢でお地蔵さんは、
「ええもんを巻いてごしたけど、まんだいいようなこと言うようなけど、この家へ来させてごさんか。」
と言われるのだって。
それから、明くる日になって、おじいさんは出かけてきて、お地蔵さんに卷いた木綿をはずして、お地蔵さんを背中に負って自分の家に連れてもどったそうな。
そうして、屏風の縁にお地蔵さんを置いて、火を焚いてあたらしてあげたら、お地蔵さんの鼻の穴からポロリポロリポロリポロリ米が出だしたんだ。
「ありゃあ、地蔵さんの鼻から米が出るぞ。」
それでおばあさんも、
「何でもええ、持ってきて受けみぃをせえ。」
というので、それから入れ物を持ってきて受けて米を取っていたら、そのうちにちょこちょこっと隣のおばあさんがやって来たそうな。
「ありゃ、こりゃあまあ、ええことだ。うちもその地蔵さんを貸してごしなはれえな。」
と言う。
「そりゃまあ、うちのお地蔵さんではないけど、お地蔵さんが行きなはりゃあ行きなはあだし、おれはおれの地蔵さんでないけえ貸せまいちゅうことは言えんけど。」言ったら、隣のおばあさんは、
「まあ、何だらし借りていなにゃいけん」。
と言って、それからそのお地蔵さんを借りて帰って、囲炉裏の縁から当たり当たりしていたら、やはりお地蔵さんの鼻から米がポロリポロリ出だしたそうな。
さあ、そのおばあさんはひどい欲ばりだったから、
「これだけじゃあ、まあ、少ない。もっとよけい出さにゃいけん。」
というので、火箸を焼いてそれを地蔵さんの鼻の穴につっこんだそうな。
そうしたら出ていた米がポロッと止まってしまって、もうどうしても出ないようになった。
だから、欲ばってもいけないし、人の真似をして人よりようなろうと思ったっていけないから、自分相応の暮らしをするということを人間である以上、考えなければいけないからな、みんな分かったなあ、昔こっぽり。(伝承者:明治40年生)
解説
関敬吾博士の『日本昔話大成』から、この昔話の戸籍を紹介すると、本格昔話の「大歳の客」の項目の中に「笠地蔵」として登録されている。鳥取県内で類話を探してみると、岩美町田後と鳥取市河原町山手の二カ所で収集されていることが分かる。