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昭和63年(1988)8月23日、三朝町大谷で採集

語り
 昔あるお寺に和尚さんと小僧さんとおったそうな。
 あるとき小僧さんが、遊びに出ようと門前まで出たら、門前のおばさんが洗濯しておられた。見るとその中に和尚さんのものが入っていたそうな。
「おばさん、その洗濯物はおっさんのかいな。」
「うん、おっさんがあんまり汚れたのを着とんなはったけえなあ、洗濯してあげよかと思ってしたげよるだわな。」
「ふ-ん、そりゃええなあ。」と小僧さんは言って、そのとき小僧さんがにやにや笑いだして、しまいにゃ声を出して笑いだしたそうな。
「何が小僧さん、おかしいだ。」
「いや、おかしいちゅうこたぁないけど、何だか笑いたんなった。」
「気持ちが悪いなあ、小僧さん、言いなはれや。」
「いや、言やぁおばさんが怒んなはるけえ、言わん。」
「いや、絶対怒りゃしぇんけえ、言いなれ。」
「ほんとに怒りならしぇんか。」
「怒りゃしぇん。」
「なら、言うけどな、おっさんはな、『おばさんはなあ、ほんに気だてもええし、何にも文句のないええ人だけどなあ、ただなあ、ちょっと臭いでなあ。』って言いいよなったで。」
「ふ-ん。」
「言いなはんなよ、おばさん。」
「言やあしぇんって。」
 それから小僧さんは寺にもどって、
「おっさん、もどりました。」と言って、そいから和尚の前に出ていて、またにやにや笑いだいた。
「小僧、何がおかしいだ。」
「いや、別に。」って、それでもやめずににこにこにこにこ笑っている。
「話せや。」と和尚さんが言ったげな。
 すると、小僧さんは、「いや、話いたら和尚さんが怒りなはるけえ、話さん。」と言った。
「いや、絶対に怒らん。」
「いや、ほんとうに怒んならしぇんか。」
「怒らん。」
「なら、話すけどなあおっさん、あんなあ、門前のおばさんはなあ、『おっさんはええ人だけど、何だし文句のないとこだけど鼻の頭が真っ赤なながなあ、あれが一つきずだわい。』って言いなはったじぇ。」って、
「ああ、そうか」
「おれが言ったちゅうことを言いなはんなえ、おばさんが怒んなるけえ。」
「言やあしぇん、言やあしぇん。」
「そいから、まあ、ついでだが和尚さん、『小僧、小僧』言ってもらっても困るが、和尚さんにも名前があるやに、おれも名前を一つつけてもらいたいが。」て言った。
「おう、つけてやる。何ちゅう名前にしようかなあ。」て和尚さんが考えよったところが、
「和尚さん、おれには『くさい』ちゅう名をつけてごしなはれんか。」
「『くさい』、ああ、いや本人がええちゅうならつけたるわい。」と言って、それから小僧さんは・くさい・という名前に変えてもらったそうな。
 何日かしたら門前のおばさんが、和尚さんの洗濯物を持って通ってきた。
 そうしたところが和尚さんが、小僧の差し金だけど、門前のおばさんが、・おっさんはええ男だけど鼻の頭が赤いのが難だ・って、おばさんが言ったということを小僧から聞いていたから、和尚さんが衣の袖で鼻の元を隠すように押えながら、
「おおい、門前のおばさんが来たけえ、くさい、お茶ぁ出せ。」と小僧さんを呼んだそうな。小僧には名前をつけたので「小僧」とは言われなくなったからねえ。
 さあ、ところが、おばさんが和尚さんの顔を見ると、和尚は鼻の頭を衣で押えているし、そうしておいて「くさい」って言うから、どれだけ自分が臭いのやら分からないようになっったげな。
 それでおばさんは、
「おっさん、長い間、まあ、かわいがってもらえたけど、それほどなあ、衣を当てがわにゃあならんほど臭けりゃなあ、もう来りゃせんけえ。くつろぎなはれ。」と言って、
「洗濯もんはここへ置いたけえなあ。」と怒ってふいとこふいとこ帰ってしまった。
 さあ、小僧はおかしくてかなわないけれど、出るわけにもいかない。それでしばらくして、「おっさん、どげなことだい。」
「いや、門前のおばさんがなあ、『くさいって言った』ちゃんことを言って、おれは言いもせんに腹ぁたてて、洗濯物投げといていんでしまった。」
「そりゃあいけんことだったなあ、さあ、どこを臭いでもないになあ、は-あ、不思議なもんですなあ。」と言って小僧さんはとぼけとったって。
 それで、その門前のおばさんと和尚さんの仲を割いてしまった。そういう話。
 昔こっぽり。
(伝承者:男性・明治40年生)
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解説

 昭和63年8月、米子工業高等専門学校が天神川流域民俗総合調査を行ったさい、そのメンバ-の一員だったわたしが語り手のお宅にうかがって聞かせていただいた話の一つがこれであった。この方は男性には珍しく実にキメの細かい充実した語りをなさる素晴らしい方だった。
 この「小僧の作戦」の話は笑い話に属するもので、関敬吾博士の『日本昔話大成』によれば、「三 巧智譚」の「B 和尚と小僧」の「五四五 鼻が大きい」の中に、きちんと次のように登録されている。「小僧が女には和尚は口が大きいと、和尚には女が鼻が大きいといったと告げる。二人があったときには女は口を和尚は鼻をおさえる。」
  この種類の話は、稲田浩二氏の、『日本昔話通観』で調べてみても、山陰では見られない。また、関敬吾博士の『日本昔話大成』第九巻の「鼻が大きい」に事例が挙げられてはいるが、それによるとなぜか鳥取県東伯郡関金町に一例だけ認められる他は、九州地方の大分、鹿児島、長崎で収録されている以外、はるか離れた東北地方の福島、山形、岩手の各県にわずかに認められるだけであるが、その中間地帯には全く収録の報告はない。


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