語り
昔あるところにねえ、東の長者と西の長者とあったそうでして、それで田植えをしなければならないのに、雨が降らないために田圃に水が入らなくて、それで長者が困られたそうです。
そこで、東の長者の主人が堤に出て、雨をお願いされたけれどもなかなか雨が降ってこないのですって。長者は何日か出られたけれどもなかなか雨は降りません。
ある日、また長者が出られたところ、堤のへりに小さい蛇がいたので、その蛇に向かって長者は「雨を降らしてくれ。そうしたら、うちには娘が三人おるけえ、おまえに娘を一人嫁にやる。何町だか何10町だかも田植えをしなければならないので堤の水を貯めてくれ。」と言われたそうです。
そう長者が言われたら、大きな山のような雲が出てきて、そして大きな雨が降ってきたそうです。そうしてものすごく早くその堤がいっぱいになったのですって。それから何10町もの田が植えられたそうです。
長者は家に帰って、上の娘さんに「こういう約束をしてもどったけえ、蛇の嫁になってくれ。」と言われても「蛇の嫁にはようならぬ。」と上の娘が言われるし、中の娘も「ようならん。」って言うし、長者は困ってしまったそうです。
そうしたところ下の娘が「お父さんがそういう約束しなはったなら、嫁になって行く。」と言ったそうです。そして娘はさらに「それで何にも嫁入りごしらえはいらんから、本を10巻とイワシを買ってください。」と頼みました。
イワシはとてもたくさんだったそうですが、そのイワシと本を10巻と買ってきて、蛇が迎えに来る日に大きな穴を掘って、その中にイワシを入れて、それを焼いたのだそうです。そして、親戚の人たちがみんな集まって、泣いていたそうです。
そうしたら、蛇がやって来て「約束の娘をもらいに来た。」って言いました。
「その約束をしておっただけど、その娘が今死んだので、そっで今、葬礼しよるところで、残念なことだけど、おまえがところに行かやがない。死んで今葬礼しよるだ。」て言ったら、その蛇が「おれの嫁さんになってごす人が死んだなら、おれもいっしょに死ぬる。」と言って、その大きな火が燃えているところに飛び込んで、その蛇も死んでしまったそうな。
それでその娘さんは「蛇の嫁だから、一生、嫁には行かん。」って言って、嫁に行かずに西の長者の女中に行って、そして顔に灰をいっぱい塗って汚い衣装を着て、そして一番下部屋の女中をしておったそうです。
そうしたところが、毎夜、上から上から風呂に入って、一番しまいに、その下部屋の女中さんは風呂に入って上がって、きれいな顔になって、きれいな衣装を着て、そして本を10巻持って行っているので、その本を読んでおったところが、そこの若い息子さんが外から遊んで帰って来ると、下部屋に灯がついており、話し声がするそうな。それが毎夜毎夜なので不思議でかなわんから、ある夜、のぞいてみたのだそうです。
そうしたら、きれいな娘がきれいな衣装を着て、むつかしい本を読んでいるので、不思議でしようがないので、明くる夜も明くる夜ものぞいてみると、同じ調子で、ちゃんと行儀よく本を読んでいるので、それから若さんさんはその娘さんが好きになって、ほかの人との結婚話が出ても頭を振って、どうしたってその話に乗られないそうです。そして、しまいにはとても痩せて、食べ物も食べられないようになって、寝込んでしまわれたそうです。
それで西の長者は心配してどこかへ拝んでもらいに行かれたら、「好きな女があるためだ。その女は家の中におる。」っていうことだったので、上の女中から次々20人も女中さんがおったのが、みんな19人までは、ずーっとそのお膳を持って行かせても若さんはご飯を取らないので「もうこの家には女はおらん。」と言って長者はあきらめておられたけれど、「もう1人、下部屋の灰坊も女のうちだが、あれに持っていかしてみるがええでないか。」という話になったそうな。
それからその下部屋の灰坊を呼んで、「若さまにお膳を持っていくだけえ、きれいに湯に入って来い。」と言ったそうです。それからその娘さんが風呂に入って、上がって、きれいな衣装を着て出られたところが、あんまりきれいなのでみんながびっくりしてしまってなあ、そいから若さまのところにお膳を持って行かれたら、若さんはそれを食べられたのだってなあ。それで「まーあこれが、こがな女だとは知らなんだ。」ということになり、それで素性を調べてみられたら東の長者の娘だったということでなあ、それでその娘さんをもらって、結婚されたのですって。
ところで、その娘さんの姉さん方はいくらよいところに行かれても、貧乏になるし、その娘さんは最後まで長者でよい暮らしをしておられたのだそうです。
それで昔こっぽりです。
解説
各地に類話が多い話である。