語り
あるところのあるお寺に、和尚さんと小僧さんがあったそうな。
あるときに小僧さんがふっとのぞいて見たら、和尚さんがなんやら鉢の中からおいしそうなもんを出して食べとんさったもんで、なんか小僧さんもほしかったんだけど、なかなかそれ、もらって食べることができなんだ。
「和尚さん、それは何ですか。」て聞いたら、「これはなあ、毒が入っとるので子どもが食べたら危ないだけんなあ、食べられんだけえ。」というようなことで、いつも和尚さん、自分一人でこっそりと食べとったそうな。
それから、ある日のこと。小僧さんは、ほしゅうてたまらんので、和尚さんが出かけられた後で、そっとその和尚さんの部屋に入って見たら、壷の中においしそうな飴が入っとったんだ。それを少しずつ少しずつ食べてみたら、おいしいので限りがなかった。
さあ、そこへ和尚さんが帰ってこられた。「さあ、困った。どうしよう。」と思って、とっさに考え、思い切ってその鉢を割ってしまいました。
「これ小僧、なんとしたことをしたのだ。大事なこの鉢を割って。」と小僧さんは和尚さんから叱られました。
そしたら、小僧さんが言うには、「和尚さんなあ、誤ってこの鉢を割ってしまいました。その申し訳がないので、いつも和尚さんが”毒だ、毒だ”ておっしゃてるから、この毒を嘗めて死んでしまおうかと思って、一生懸命嘗めましたけども、まだ死ねません。申し訳ありませんでした。」て謝ったそうな。
それを聞いた和尚さんもとうとう叱ることもできなんだので、かえって叱られるどころか誉められたそうな。
その昔こっぽり。(語り手:大正9年生まれ)
解説
この話は笑話の「和尚と小僧」の中にある話の一つであり、狂言の演目の「附子」(ぶす)もここから作られたものと思われるものである。