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平成7年(1995)4月22日、米子市今在家で採集

語り

 昔々のことですけど、古いお寺がありました。
 ところが、いつのころからかそのお寺ににお化けが出るようになり、そこに和尚さんが行くと、必ず怪物が出てきて和尚さんが食い殺されるということになります。そんな恐ろしいお寺だったんです。
 あるとき。そこに心の優しい和尚さんが一匹の猫を連れて住まわれましたら、もう怪物も出なくなり、よい具合に暮らしておられます。
 それで村のみんなが、「あの和尚さんは、ええ和尚さんだで、きっとその怪物なんかでも怖がって出てこんような、そんな徳のある和尚さんだで、あの和尚さんは。」と言っていました。
 そしたら、その飼っているタマという名前の猫が、近くの床屋さんところにおるフジという猫ととても仲が良くなって、二匹がいつもいっしょに遊んでおりました。
 そうしていましたら、この二匹の猫はまた、盆踊りを踊ることが好きなもので、女の子に化けて、いつも盆踊りの仲間に入って、そして盆踊りを一緒にしておりました。
 そうしているうちに、みんなの村の人にとうとう見破られてしまって、二人の女は猫だということが分かりました。そこで人々はそのことを和尚さんに話しました。
 すると和尚さんが、「タマや、おまえのことをいろいろ評判する者があって、かわいそうだけれども、もうここに置くことはできんから、どっか他所に飼ってもらってごせ。お別れにご馳走してやるから。」 和尚さんはそう言いました。
 それから和尚さんは朝早くから起きて、タマの大好物な鰹節を一生懸命で削ったりして、もう、たくさん、ご馳走をしてやったそうです。
 すると、タマはそれを食べて、そのままおらなくなりました。
 それから一週間ほどしてから、お寺ではまた下の方でガタガタガタガタいったりする怪物みたいなもんが現れるようになりました。そしてそーっと走ったりするようになり、和尚さんはもう恐ろしくてなりません。「困ったことだなぁ。わしももうここにおられんわい。」と、その和尚さんは言って、恐ろしがっておられました。
 ある日のこと。知らない女の人がお寺にやって来て、和尚さんに言いました。
「わたしはここでお世話になったタマでございます。あのときはいろいろお世話になりました。ところで、和尚さん、このごろ、もう、いろんな怪物が出て和尚さんは困っておられますが、あれの正体は大ネズミでございます。わたしは和尚さんへの恩返しに、そのネズミを退治します。これから友だちをたくさん連れて来てみんなで大ネズミをやっつけます。それでお願いですけれど、和尚さんが最後に食べさせてくださった鰹節が、たいへんおいしかったものですから、あれをもう一つご馳走してください。」そう言ってその女の人は消えてしまいました。
 それでその和尚さんは、いっぱい鰹節を削って用意して、待っていました。そうしたら、やがて猫たちが女に化けて来て、そして鰹節のご馳走を喜んで呼ばれました。
 それからその夜は、みんながあっちこっちに番をしておったんですねえ。
 その和尚さんも一緒に隠れておったそうです。 そしたら、やっぱり大ネズミが化けて出てきて、それからもう猫やちがみんな寄ってたかって、その大ネズミを食い殺してしまいました。
 それから、そのお寺では二度ともうお化けが出なくなったという話です。
 これはお世話になったタマが和尚さんに恩返しをしたというお話です。
 こんぽち。(伝承者:大正12年生)
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解説

 米子市内の語り手を捜して歩いているおりに、たまたま知り合った語り手に語っていただいた。出身は西伯郡日吉津村なので、この話はそこで聞かれたものかもしれない。この話は関敬吾博士の『日本昔話大成』による分類では、本格昔話の「動物報恩」の中に「鼠退治」として登録されているものに一致する。


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