語り
とんとん昔があったげなわい。
お猿さんがおって、そのお猿さんがたくさんにドジョウを捕って、他の猿にたいへんに見せびらかして、
「ああ、わしゃがいにドジョウ捕ったぞ。ドジョウ捕ったぞ。」
と見せびらかして、たくさんドジョウを食ったげなわい。ところが、その隣におった猿が、
「わしもとにかく、ドジョウを捕らないけんけん。」
ということで、それで、前の晩に捕った猿のところに、
「おまえはどげして捕ったか。」
ということを聞きに行ったというわい。
そうしたら、捕った捕ったてってすごくに威張っていたその猿が、
「ドジョウやなんか捕るてて、みやすいことだわ。おまえの尻尾は長い尻尾だだけん、そうだけん、その尻尾を利用してあの川ん中へつけちょきゃ、なんぼでもドジョウがさばあついてくうけん(しがみついてくるから)。だけん(だから)、その尻尾をとにかく川ん中へつけえだ。」
と言って聞かしたというわい。
それから、それを聞いた猿が一晩、水に尻尾をつけておいたけれども、いくらしてもドジョウが来てくれないものだから、それから、また、明くる日、ドジョウを捕った猿のところへ出かけていった。
「どげして捕ったか。」
「おまえが温い晩に行くけん、そうからドジョウが食わんだ。」
「うん。」
「だけん、とにかくなあ、寒い晩の川の水が凍(こお)って、カチンカチンにしみ上がぁ、そげな晩に行かないけんだわ。」
「うん。そうかあどげすうだあ。」
そうしたら、その猿が、
「凍っても凍っても、尻尾、動かさずにちゃーぁんと岸から尻尾をつけて、凍るやつをちゃーぁんと待っちょうだ。そげすうとなあ、りーんりーんりーんりーん、その尻尾がしみてしまってくうけん、そげすうとドジョウが食らいついちょうけん、もうそげんなったら一生懸命でばぁーっと引っ張ぁだ。」
と、その猿が言って聞かせてもらったというわ。
それから、その猿がちゃーんとそのことを心がけておいてなあ、その寒い晩のしみるような晩に、川の縁(へり)へ行って、ちゃあーんとその尻尾をつけておったというわい。
そうしたら、夜中も過ぎたようなころになったらなあ、だんだんだんだんしみてきて、本当に隣の猿が言ったように、尻尾をこうぐっぐぐっぐぐっぐぐっぐと、下の方からどうもドジョウが引っ張ったような格好で、どんどんどんどん尻尾がみんなしまってきたというがな。
それから、その猿もなあ、
-もう、このへんで上げんとドジョウが逃げてしまうけん-というので、それで凍みたやつを見計らって、
「よーし。」
と言って引っ張ったところが、なんとまあ、川に尻尾がしみついてしまって、なんぼしたって、その尻尾が上がってこなかったというわい。その猿は、
-がいにドジョウがさばっちょう-と思って、草の縁(へり)や木の根っこにつかまって、
「うんうんうんうん。」
言って引っ張るけれども、やっぱりどうも上がってこない。
それから、とうとうお猿さんはなあ、
大ドジョウ 小ドジョウ 抜いてごしぇー
わしの命もたまらのわぁ エートヤー エートヤー
と言って、引っ張るけれでも、まだ上がらないものだから、それからまた大きな声で、
大ドジョウ 小ドジョウ 抜いてごしぇー
わしの命もたまらのわぁ エートヤー エートヤー
そう言って、力いっぱい引っ張ったところろが、お猿さんの尻尾が、なんと根元からポツンと切れてしまい、その上、お猿さんの顔は一生懸命に力いっぱい引っ張ったものだから、真っ赤になってしまって、それで今でもお猿さんの顔というものは真っ赤であるし、尻尾というものは短いものになってしまったのだとや。
それで隣の猿もちゃあんと尻尾が短かったから、それで隣の猿と同じように短かい尻尾になったのだとや。
それで隣の猿がもともと意地悪で、後の猿が長い尻尾を自慢しているからと思って、そうでいたずらで意地悪をして、後の猿にそのようなことを教えたわけだ。
だからなあ、そのようなことなどを他のものに、めちゃに嘘をついたりなんかすることはいけないからね。かわいそうなことになるのだからね。その昔こーんぽち山の芋。(伝承者:昭和3年生まれ)
解説
関敬吾『日本昔話大成』の動物昔話の中の「1 動物葛藤」の「尻尾の釣り」にその戸籍がある。