語り
浦島太郎が海辺へ魚釣りに出たら、子どもが大人数して亀をいじめておったそうですが、その浦島太郎が「その亀を自分に買わしてごしぇ。」と言って、子どもからその亀を買って、そげして離してやったそうです。
そげしたら、その明くる年だえら、三年目だぇに大きな亀が来て、浦島太郎は釣りが好きなもんだけん、いつも海辺へそげしに行きとったら、その大きな亀が来て
「子どもがたいへんお世話になって、そのご恩返しに竜宮いうところへ連れて行ってあげえかん、わたしの背中へ乗ーなさい。」て言って「そうかな、そうしたら竜宮いうところは知らんけん、乗せてもらって行くわ。」そいから乗せてもらって、竜宮さんへ連れて行って、そいで毎日ごちそうを呼ばれたり、そいから竜宮さんの乙姫さんが踊りや舞で、まあとってももてないてくれたので、そいでもう「あんまり長いことよばれたで、踊りも見たりしてあきれくるほどに何したけん、もう帰らしてもらうけん。」と言ったそうです。
「そうですか、ほんなら名残惜しいけど、ほんなら帰るならこれを土産にして。」玉手箱を渡されて「これはもう、この玉手箱の蓋は開けるでない。」て、姫さんが言われたそうで、たら、村へもどってみたところが自分の家はないし、友だちはおらんし、村はすっかり変わってしまって知った人間は一人もおらんやになってしまって、そうか、途方にくれて、もうどっちい行きても、もう知った人間はおらんし様子は変わってしまって、ぼやっとしちょって「その玉手箱の蓋を開けるでない。」って言われたことは忘れて、玉手箱の蓋ぁ開けたら、白い煙がぼーっと立ち上がってそうで、そげしたらもういっぺんに白髪のおじいさんになってしまって、そいでその浦島太郎は三百年ほど竜宮さんで、みんなにご馳走にあったり、踊り見たりしておったそうです。それでもう浦島太郎は「こげなおじいさんになったら、自分の一生はもうこれぎりだ。」言われたそうでございます。(語り手:明治32年生まれ)
解説
この語りは普通に語られている一般型といえそうである。