語り
なんとなんと昔があったところに、じいさんとばあさんとがおられたって。
それから隣りのじいさんやばあさんは頑固者で、たいそう怠け者だったって。
あるとき、じいさんは「草刈りに行こうかい。」と思って鎌を研いでおられたけれど、井戸の縁(へり)でポチャーンと音がしたものだから、ばあさんが、「あら、じいさんは井戸に落ちさったすこだわい。」と思って井戸の中をのぞいて見られたら、やっぱりじいさんが井戸に落ちていたって。
じいさんが、「はや(早く)、ばばや、おら、井戸に落ちたけん、縄取ってごしぇ。」と言うので、それから、ばあさんが縄を取ってあげたら、じいさんは自分の腰に縄を結(い)わえつけて、そして、「身代が上があわいのう。身代が上があわいのう。」と言いながら上がってくる。ばあさんも一生懸命にじいさんを引っ張りあげる。そして、「身代が上がったわいのう。」と言われたら、なんと体中に、まあ、小判がいっぱいひっついていたそうな。
それで隣回りの子どもたちに頼んでその小判を取ってもらって、喜んでおられたって。
そうしたところ、また、隣のじいさんやばあさんが、それを真似しようとしたのだって。
「隣のじいさんががんじょうなだけん、また、朝ま疾(と)うから草刈りい行くてて、ま、井戸に落ちて、銭ががいに(たくさん)ついて上がったてえだが、このじいさんは横着なだけん、寝てばーっかりござーだけん。」と言って、ばあさんが怒られるものだから、また、じいさんも真似をして、「ほんなら、おらも草刈りい行かかい。」と言って、また、草刈り鎌を研いでいったら、井戸へ落ちられたって。
「はや、井戸に落ちたから縄取ってごしぇ(縄を取ってくれ)。」とばあさんに言う。
それから、縄を取ってもらって、じいさんは今度は自分の首に結わえつけただって。
そこで、ばあさんが、「身代が上があわいのう。身代が上があわいのう。」と言いながら引っぱりあげておられたけれども、「上がったわいのう。」と言われるまでに息が切れてしまっただって。
それで、「人真似なんかはするものではないぞ。」と言って聞かせされていました。
その昔こんぱち、ごんぼの葉、煮えて噛んだら苦かった。(語り部:明治30年生まれ)
解説
この話が典型的な日本昔話に属しているとお気づきになられるはずである。それは有名な「花咲か爺」とか「猿地蔵」「ネズミ浄土」などの話でおなじみの、主人公であるおじいさんは確実に成功して幸せになるのに対して、隣のおじいさんは、これまた必ず失敗して不幸な結末を迎えることに決まっている。この話も本格昔話の「隣人型」になるこれらの話の法則に、ぴったり当てはまるからである。
ところで、不思議なことにこの話は関敬吾博士の『日本昔話大成』を見ても、どこにもその戸籍が見つからない点である。つまり、新話型ということができる珍しい話である。