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昭和61年(1986)8月3日、大山町高橋で採集

語り

 なんとなんと昔あるところに、貧乏な貧乏なじいさんとばあさんとがあっただって。
 じいさんがどこだったか山の方へ行きかけたら、たくさん男の子がおってかわいらしいかわいらしい犬ころを、たいへんに押したり引っ張ったりして、なぶり殺しにするようにしているものだから、
「これ、わっち、おらにその犬ごしぇんかあ」と言ったら、
「何やあだ。われがやあなじいにやれへんわい」と言う。
「おれんなり、銭出すけんごしぇえやあ」と言っても、
「銭でもいらんわ」と言う子もあるし、
「あげなこと言わずと銭ごせりゃあやらいや」と言う子もあるししたそうな。
 それで、じいさんはとうとう銭を出してその犬ころをもらったのだって。そうして連れて帰って、ポチという名につけたそうな。
 そうしてばあさんに、言ったそうな。
「ばばや、ばばや、あんまり子どもがこの犬ころをえらいいじめるで、かわいさぁで、おら、買あてもどったわ」。そうしたら、ばあさんが、
「何すうだ。この糞じい。ようにおらがとこでさや、置かやがないのに、この犬ころ、どげして飼うだら。われ、飼っとれ、なら、おら、ここにある米でお粥なと煮て食っちょうけん」と言って、とてもばあさんが怒られたそうな。
 そうしたら、たらたらたらたらっと、犬ころが走って出てしまったそうです。
「それみい。ばば、わが怒ったけえ出たがな」。
 犬ころが出てしまったので、じいさんが高いところに登っていて、
「赤、カーカッカッカー」と言われたら、犬ころは前にあった二銭や一銭の真っ赤な銭を、たくさんに持ってもどって来たのだって。
「見い、ばば。わぁが怒ったが、山のやあに銭、くわえて来ただで」とじいさんが言うと、
「あら、銭くわえて来たかや」と言って、ばあさんの機嫌が直ったそうな。
「はや、ほんなら、ま、このお粥なと食わしてやらはい」と、ばあさんはお粥を煮ておられたので、それを出して食べさせたら、今度また犬ころが出たので、それでじいさんが、
「白、カーカッカッカー」と言われたら、今度は、白い銭をたくさん、五十銭や二十銭や、また十銭やらがあったのだが、そのような銭をくわえて来たのだって。そうしたら、ばあさんもとても喜んで、
「ポチやポチや」と言って、その犬ころをわいがられるのだって。
 そうしていたら、隣にもまた貧乏な貧乏なじいさんやばあさんが住んでいたというが、そのじいさんやばあさんが、
「こりゃ、隣のじいさん。そっちには犬飼っちょって、がいな銭くわえて来たてえが、おらにも貸せっさい」と言うので、それから、
「だれんも貧乏でえらいなぁ一つことだけん、なら、いっぺん、使わはいな」と言って、その犬ころを貸せると隣のじいさんが連れて出なさったのだって。
 そうして、隣のじいさんが、
「赤、カーカッカッカー」と言って、高いところに上がっていて呼んだら、その犬ころは赤土をすごくくわえて来たのだって。
「このゲダが、赤土なんかくわえて来て」とそのじいさんが、とても怒られたら、今度、また犬ころが出たので、
「白、カーカッカッカー」と、また、そのじいさんが呼ばれたところ、今度は犬ころは白土をくわえて来たので、それから、また、じいさんはとても怒って、腹立ちのあまりその犬ころをたたき殺してしまいなさったって、
  それから前のじいさんの家では、犬ころがあまり帰らないので、隣のじいさんの家へ行って、
「ポチ、もどいてごっさい」と言うと、
「おう、もどいちゃあわあ」と、死んだ犬をポイーッと投げられたのだって。
そして、
「赤、カッカーて言わ、赤土くわえてくるし、白、カッカーて言わ、白土くわえて来るし、あんまり胸糞が悪けん、たたっ殺いちゃったわ」って隣のじいさんは言ったと。
 そうしたところが、
「かわいさに、かわいさに」と前のじいさんやばばさんは、元の山の栗の木の下にその犬ころを埋めて、毎朝毎晩、参りなさるのだって。そうして、今度、
「赤、カーカッカッカー」と言われたら、その栗の木からバラバラーッと銭が落ちる。朝も晩もそうして参りなさったら、いつも銭が落ちるのだって。
 そのことをまた、隣の意地悪じいさんが聞いて、その栗の木の下に行っていて、そうして、
「赤、カーカッカッカー」と言われるもんなら、栗のいががキンカ頭にバラバラーッと落ちる。そのじいさんはまた、胸糞悪がって、その栗の木、伐ってしまわれたのだって。
 前のじいさんとばあさんが行って見たところ、栗の木が伐ってしまってあるから、
ーまた、隣のじいさんが伐らはったに違いにゃあわいーと思って、
「ほんにまあ、こりゃまあ、どげしやもにゃだけん、つき臼なとこしらええだわい」と言って、倒れた栗の木からつき臼をこしらえたそうな。そうして、
「あしたはポチが日だけえ、餅を一升ほどつかあや、そげすりゃ二人だけん食われえけん」と、一升の餅米を蒸しておいたら、たいそう増えて、一升つけば二升になる。五合つけば一升になる。どうしたことか、餅が倍々になるのだって。
 またその話を聞いて、隣のじいさんやばあさんが、
「五合つきゃ一升になあ、一升つきゃ二升になあてえけん、一升でいいわ」てって。餅米を一升蒸しておいたら、五合ほどになってしまったって、だから、餅をついたら。またとてもとても胸糞悪がって、今度はその臼をたたき割ってしまったのだって。そして、そのつき臼を割り木にしてしまわれたのだって。
 前のじいさんとばさんは、
「ほんなら、ま、どげしようもないだけん」と焚かれた臼の灰を取っておいて、往還の日(参勤交替の行列が通る日のこと)にその灰を持って出て、道路のへりに立っていたそうな。
 そうしたら殿さんがお通りになった。じいさんはざるに灰を入れて、
「花咲かじじい、花咲かじじい」と言っていたら、殿さんが、
「おもしろいことを言うが、これには、まあ、一つ花を咲かしてみい」と殿さんが言われたので、じいさんがその灰をまいたら、あたりの枯木に桜の花やみごとな花が、本当にいっぱい咲いたのだって。
 そのほうびにじいさんは、とてもたくさんな銭を殿さんからもらって帰ったのだって。
 そうしたら、また、その話を聞いて、隣のその意地悪じいさんが、ざるにそこの灰を持って出ていたら、再び殿さんが通られたそうな。
 隣のじいさんはざるに灰を入れて、
「花咲かじじい、花咲かじじい」と言っ
ていたら、殿さんが、
「こないだも、見事に花を咲かしたけん、なら、もう一回咲かしてみよ」と言われたそうな。
 それから、じいさんが咲かせてみたら、今度は、とても花も何も咲くどころではなく、そればかりか殿さんの目に灰が入ったのだって。
 それで、殿さんが非常に怒られてねえ、隣のじいさんはとうとう縛られてしまわれたのだって。それで、悪いことばっかりされたじいさんは、何にも報いられず、いいことされたじいさんは、たくさんに金を溜めて、そのじいさんとばあさんと二人は、休んでいても食べて行かれるようになったのだだって。
 その昔こっぽり。
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解説

 よく知られた話であるが、オーソドックスな内容と微妙に違っているところが地方色である。また、この語り手は明治30年生、大山町生まれであるが、いわゆるズーズー弁で出雲地方の方言に似ている点にも注目いただきたい。


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