語り
あるとき(最初に)キジが「何ぞがああへんだらか」と思って、
山をこそりこそり歩き回って食べ物を捜していましたら、
トビもトビで「何ぞ食い物の用意せんならんが」と思って、やはりそのあたりをこそりこそりしていました。
そして二羽はそこでぱったり出会ったそうな。
「だあだかと思やあ、キジさんか。」「ああ、トビさんか。」
と二人が話しているとまた、下の方からこそこそ音がするので、だれだろうかと思っていたら、今度はサギが出てきて、
「あら、こらサギさんだがなあ、まあ、ええところで出会ったけん、なんと物を言いやぁこすりゃあ、銭がいるけん、歌うたいやこしょいや。」と誘ったそうです。
そして三羽は、「そりゃよかりゃあ。」ということになってうたい方の相談をしました。
「おまえから、高いところに登って歌うたえ。」
「キジさん、先にうたえ。」
「トビさんこそ先にうたえ」。
「いや、サギさんが先にうたえ。」とお互いに言い合って、だれもが先にうたいませんので、しびれを切らしたキジが、
「そんなら、おらが一番先ぃうたぁわ。」と言いました。
それからキジは、「ケーン ケーン ボトボトーッ。」と、いい声してうたったそうです。
そうするとトビはトビで、「ピーン ヨロヨロヨローッ。」と言ってうたいました。
そうすると最後にサギは、「ギョーッ ギョーッ。」と言ってうたいました。
それから、トビはトビで、「おらが上手だ。」と言いいます。
またキジはキジで、「いや、おらが上手だ。」と言います。
もちろんサギも負けてはいません。「いんや、おらが一番上手だ。」と言います。
こうしてひととおり議論がすみました。そのころ、ちょうどキツネが庄屋をしていました。
三羽は、「きりがつかんけえ、今夜、庄屋さんへ行きて聞いて判断してもらわや。」
「それがよかろう。」ということになりました。
それからキジやトビは夕飯を食べに帰って行きましたが、そのときにサギはドジョウをたくさん捕って、こっそりキツネの庄屋さんのところへそのドジョウを持って行って、「今夜、歌うたぁやこしたら論がひんけえ(尽きないから)、これあげえけん頼んけえ、ええ具合いにしてごしなはい。」ときちんと頼んでおいて、そうして夕食に帰ったので集まる約束の場所に行くのが遅れてしまいました。
キジとトビは早くそこへ来ましたが、なかなかサギは来ません。
「えらいサギは来ん、サギは来ん。」と言っていました。
そのうち、やっとサギもやって来ました。
そこで三羽は連れだって庄屋さんのところに行きました。
そうして庄屋さんの前でいよいよ歌をうたうことになりました。
キツネの庄屋さんが、「だれからでもよいけえ、さあ歌をうたえ。」と言いますと、
「さっきはキジが一番先ぃうたっただけん、ま、キジさん先にうたわはい。」ということになりました。
それからキジは一等にならなければならぬがと思って、張り切って、「ケーン ケーン ボトボトーッ。」とうたいました。
次にトビはトビで元気いっぱい、「ピーン ヨロヨロヨローッ。」とうたいますし、サギもまた、「ギョーッ ギョーッ。」とうたったのでしたって。
そこで、それを聞いていたキツネの庄屋さんが言われることには、
「キジも先のケーン ケーンはえらいいいだども、きゃ、後のボトボトが悪ぁし、トビさんはピーンはえらいいいども、後のヨロヨロが悪い。サギさんでみりゃ、け、ギョーッ ギョーッだけで、ヨロヨロもなし、あんなボトボトもなし、こうが、ま、一番よから。」とのことでした。
それで、とうとう、サギが一等になったということだそうです。
その昔こっぽり。(伝承者:女性・明治30年生)
解説
キジとトビに勝ったサギが、庄屋であるキツネをこっそり買収している。そこからサギは詐欺の言葉に掛けられていることが分かる。この話は『日本昔話通観』に掲載されていない話である。