昭和56年8月23日、若桜町大野で採集
歌詞
とんとん隣に嫁が来たとは 行っては見んけど まひげ八の字
目はドングリ目で 鼻は獅子(しし)鼻(ばな)
口は鰐口(わにぐち) 腹は太鼓腹
背なは猫背な 頭十貫 尻五貫
みんな合わせて十五貫(伝承者:大正5年生まれ)
解説
ユーモアをしのばせた手まり歌ではある。普通、嫁と聞けば、可憐な新妻の姿をつい想像するが、この歌はそれとは似ても似つかぬたいへんなものであり、隣に来た嫁についてのすさまじいばかりの悪口歌でもある。
つまり、女性の容姿について、一番好まれないものばかりを、これでもかと並べ上げている。けれども、意外と全体からは、とぼけたユーモアを感じさせる。うたっている子どもたちも、そんな味わいを楽しみながら、手まりをついていたものと思われる。
ところで、同類は東部と中部地区であったが、不思議と西部や島根県ではまだ見つからない。
さて、類歌であるが、東部の福部村のものはやや変わっていた。
とんとん隣に嫁御が来たそな 行きて見たれば 頭やかんで まいげ八の字
目はどんぐり目で 鼻は獅子鼻 口は鰐口 手は杓子で 脚はスリコギ
歩く姿はひき蛙(伝承者:明治34年生まれ)
前のに比べると、背と腹、頭、尻の形容はない。その代わり手と脚、そして歩く姿の形容が加わっている。
続いて鳥取県中部、琴浦町の例である。
うちの嫁さん 鼻は獅子鼻 目はどんぐり目 口は鰐口
歯は出っ歯で 歩く姿はアヒルが弁当負うて 大山さんへ参るような(伝承者:明治26年生まれ)
たしかに類歌ではあるが、これまでの「隣の嫁」とは違い、「うちの嫁さん」である。そして、歯が出っ歯であるという表現が、これまでにはなかった。さらに「歩く姿は、アヒルが弁当負うて、大山さんへ参るような」と表現している点も新しい。しかし、わが家に来た嫁をこれほど手厳しく形容するのは、どうしたことだろう。