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昭和54年(1979)10月7日、智頭町波多で採集

歌詞

ほ、ほ、蛍来い 蛍来い あちらの水は苦いぞ こちらの水は甘いぞ
嫁入りの談合(だんこ)しょ お玉嫁入り 三吉ゃ仲人(なかど) 次郎婿 婿や
ほ、ほ、蛍来い 蛍来い(伝承者:女性・明治40年生)

 

解説

 蛍を捕るときにうたわれる歌について述べてみたい。全国版として一般的なのは、「ほーほー蛍来い」から「こっちの水は甘いぞ…」までと最後は再び「ほーほー蛍来い」で収めるスタイルであろう。

 ところが、ここにあげた歌は、「嫁入りの談合しょ」から「次郎婿、婿や」までの部分が独特である。いろいろな地方を言語伝承を求めて歩いていて、このような独自な伝承に出会うと、何か宝物でも見つけたような喜びを覚える。この歌もまたそのような一つであった。記録をたどってみると、1979年10月7日にうかがったものである。伝承者は、実に博覧強記で昔話やわらべ歌など、非常に多くのものをご存じで、まさに無形文化財的存在であった。わたしはお宅へ何回もおじゃましたものである。時としては東京や福井の同好者や、わたしが島根大学に勤務していた当時、指導していたアメリカ人留学生を同行して、いろいろ聞かせていただいたこともあった。懐かしい思い出である。

 さて、それでは類歌の特徴あるものを少し紹介しておこう。まず鳥取県のものから。佐治村尾際では、

ほ、ほ、蛍来い 蛍来い 小さな提灯さげて来い
ほ、ほ、蛍来い 蛍来い あっちの水は苦いぞ こっちの水は甘いぞ
ほ、ほ、蛍来い 蛍来い(女性・大正4年生)

 「小さな提灯さげて来い」と蛍の明かりのたとえに特徴がある。

 湯梨浜町原では、

蛍来い 山道来い ランプの光で みんな来い (女性・明治32年生)

 短く引き締まった詞章に特色がある。
 次に島根県のもの。桜江町渡で、

ほー ほー 蛍来い あっちの水ぁ苦いぞ こっちの水ぁ甘いぞ 貝殻持てこい ブウ飲ましょ(女性・大正8年生)

 「貝殻持てこいブウ飲ましょ」は素朴であろう。
 最後に大田市川合長吉永のもの。

蛍、蛍 こっち来いポッポ あっちの水(みざぁ) 苦いけえ こっちの水 甘いけえ
こっち来いポッポ(男性・明治17生)

 「こっち来いポッポ」がおもしろい。


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