歌詞
正月つぁんはよいもんだ 赤いべべ着て 羽根ついて 雪より白いまま食って
下駄の歯のよなブリ割いて(歌い手:昭和6年生まれ)
解説
この「正月つぁん」の歌は、「正月そのものがとてもすばらしいものだ。」と評価し、その理由を「すてきな着物を着ることができ、羽根突きに興じ、普段はなかなか食べさせてもらえない、真っ白なご飯を食べることも許されるばかりか、それにはご馳走であるブリまで食べられるのである」。と素朴に並べてうたいあげている。
不思議なことに、わたしはまだ島根県ではこの類の歌は収録していない。かなり気をつけて調べてみたが見つからなかった。しかしながらなぜか、鳥取県には多い。同郡湯梨浜町別所でも、
正月つぁんはよいもんだ 赤いべべ着て バボ食って
下駄の歯のよなぶり食って(歌い手:明治37年生まれ)
とあり、中部から西部にかけてうたわれていた。西部の例としても、西伯郡大山町国信で、
正月つぁんはよいもんだ 下駄の歯のよな ブリ食って 雪より白いまま食って
赤いべべ着て 羽根ついて 正月つぁんはよいもんだ(歌い手:明治44年生まれ)
このようにほぼ同じ内容である。ただ、この歌は鳥取県でも東部ではまだ見つかっていないようである。
ところで、第二次世界大戦前の日常の食事は、まことに粗末で、麦飯は当たり前、しかも麦が半分以上入ったご飯も珍しくなかった。そのような時代の子供たちにとって、白いご飯は最大のぜいたくだった。それが「雪より白いまま食って」と表現されるのである。
なお、連鎖反応的に思い出すものとして、「牛追いかけ節」(牛追歌)がある。松本穰葉子著『ふるさとの民謡』(鳥取郷土文化研究会刊)では、伯耆地方の次の歌が紹介されている。
博労やめやめいわれるけれど 何で博労がやめらりょか
夏は木の下蔭休み 冬は炉端で煙草盆 いたちの毛のような煙草吸い
油のような酒のんで お手々たたいて何百両 なんぼ親衆が叱っても
なんで博労がやめらりよか。
正月と何の関連もない民謡であるが、どことなく共通した感じがするのは、わたしだけであろうか。