歌詞
しび しび あがれ 京都まであがれ(伝承者:明治28年生まれ)
解説
不自然な姿勢をとっていると、足先がしびれることがある。このしびれは、時としてはたまらなく辛いものである。そのようなときには、この「しびれ」を取り除くまじないの歌が存在している。これまでに鳥取県では東部と中部だけでしか採集できなかったし、島根県ではまだこの歌を収録していないが、捜せばきっと似た形で存在していると思う。
さて、この歌では、しびれを擬人化して京都まで行ってほしいとするのである。歌の収録地である鳥取県の北栄町から京都までは、相当な距離になるが、そう言ってまでしびれを治したいくらい、しびれることは辛いのである。
この歌からは、このようにしびれの退散の、一刻でも早いことを願う気持ちが、よく表されている。少し同類をみることにする。
東部の鳥取市佐治町では、
しびれ しびれ 飛んで行け(伝承者:大正4年生まれ)
こううたわれていた。この歌を教えてくださった方の話では、左手を回しながら唱えると特に効果があるのだそうだ。どうして左手がよいのだろうか。少しその理由を考えてみよう。一般的に左というのは、右よりも上位としている。よその家を訪問した場合、客間へ通されたさい、床の間の左側に座る方が右側の席よりも敬意が高いことになる。この歌で左手を重視するのは、そのような一般的な常識が案外、歌の背景にあるのかも知れない。
しかし、他の地方では、特にそのような説明は聞かなかった。
次に東部の若桜町の歌を紹介しよう。
しび しび あがれ 天まであがれ(伝承者:大正2年生まれ)
しびれを取り除こうと懸命に願う気持ちが、今度は北栄町のように、京都ではなく「天まであがれ」と空への退散を願う形でうたわれている。
一方、中部の琴浦町のものは、「しびれ」を擬人化したあげく、上の家で作られる餅と、下の家で炊かれる粥を対比させて、価値の高い餅をついている上の家に行くよう勧めるという、変わった構成を取っている。最後にそれを眺めておこう。
しびりかし 上(かみ)へあがれ 上の家にゃ餅がつける 下(しも)の家にゃ粥(かゆ)が煮える(伝承者:明治26年生まれ)