歌詞
凸凹キュピちゃんが風邪ひいて 花見に行こうと花畑
花見の最中に手をあげて キュピちゃんがキュと泣いて キュッ キュッ キュ
(伝承者:昭和51年生)
解説
この歌は昭和37年(1962)春に聞いたものである。わたしはこの年、26歳で中学校の教師だった。そしてこのような研究を始めてようやく3年目に入ったところであり、ふとした縁で鳥取県へ調査の足をのばしていた。このときうたってくださった娘さんは、まだ中学生で、わたしの希望に応じて友だちといろいろな歌を教えてくださった一つがこれだった。メロデイーは「権兵衛さんの赤ちゃんが風邪ひいた」と同じなので、この歌はそのパロデイーともいえる。島根県金城町でも同類はあった。もっとも初めの名前はキミちゃんとなっていた。後半ではキュピさんであるから、伝承歌特有の変化といえよう。
凸凹キミちゃんが手をひいて 花見に行こうと 花畑
花見の最中に 手が折れて キュピさんがキュと泣いて キュッ キュッ キュッ(伝承者:昭和24年生)
さて、この歌は比較的新しくできたもののようだ。それは「凸凹キュピちゃん」とある語句から推定される。キュピちゃんというのはキューピー人形から来ていると思われる。これは頭の先がとんがっていて、目の大きい裸の人形である。元はといえばローマ神話の恋の神キューピットを指している。翼を持った少年の神として考えられ、その黄金の矢で射られた者は、恋に捕らわれるというのである。昔はセルロイド製の人形があったことを、わたしも記憶しているが、簡単にへこむことが多く、案外、そこから「凸凹」という出だしの詞章が作り出されたのではなかろうか。
このキューピー人形は、かわいらしいところから、昔の子どものアイドルだったのか、同じ琴浦町で次の歌も見つかった。
一銭五厘のキュ-ピ-さん お金がないのにバス乗って
運転車掌に叱られて これは失敗ごめんなさい(伝承者:昭和24年生)
島根県匹見町に伝わる同様の歌。
凸凹キュピちゃんが 山道越えてハイキング(伝承者:昭和51年生)
わらべ歌の題材は自在である。子供の気に入れば、いろいろなものが歌に取り入れられる。
かわいく愛敬のある顔立ちのキュピー人形は、以前の子供たちの人気キャラクターだったといえる。したがって、何のてらいもなく、子どもたちは、この人形を自分たちの遊びの仲間に加えてしまったのである。