歌詞
青葉しげちゃん 昨日はいろいろお世話になりました
わたしも今度の月曜日 東京の女学校に上がります
あなたもよくよくご勉強 なされてください 頼みます(伝承者:昭和4年生)
解説
手まり歌としてうたわれていた。年齢的には90代くらいの方々にも懐かしい歌ではないかと思われる。全国的にうたわれていたようで、明治時代に和歌山県で生まれたわたしの母も知っていた。これは手まり歌ではあるが、実際は明治32年に熊谷久栄堂から出版された『湊川』という歌の本に出ていたが、その歌の替え歌である。作詞は落合直文。この本では15章からなっており、そのうちの初めの6章が、特に「桜井の決別」という小見出しがついており、その最初の部分が「青葉しげちゃん」の本歌になる。せっかくなので、2章までを紹介しておこう。
青葉茂れる桜井の 里のわたりの夕まぐれ 木の下蔭に駒とめて
世の行く末をつくづくと 忍ぶ鎧の袖の上に 散るは涙かはた露か
正成涙を打ち払い 我子正行呼び寄せて 父は兵庫に赴かん
彼方の浦にて討死せん いましはここまで来れども とくとく帰れ故郷へ
(金田一春彦・安西愛子編『日本の唱歌』[上]明治編より引用)
なお、「桜井の決別」という小見出しであるが、後には「青葉茂れる桜井の」という題になってうたわれていた。
歴史上よく知られた南朝方の武将、楠木正成とその子、正行についてのエピソードをうたっている。第二次世界大戦まで、小学校教育の国語や歴史、修身などで取り上げられていた美談であった。したがって、子供たちには親しまれた歌でもあった。
けれども、子供の世界にあっては、そのような話よりも、主人公を身近な友人にふりかえて、「青葉しげちゃん」なる人物としてうたっている。そして東京の女学校に進学するため、地方から上京するのが別れの理由ということになっている。また、「しげちゃん」の方も、「あなたもよくよくご勉強、なされてください。頼みます」と言っている。
明治、大正のころに流行りだした替え歌である。当時、上京することと、女学校に進学することは大変なことだった。教育は小学校だけで終わる場合が普通だったから、この歌は一般の家庭の子どもたちにとって、一種のあこがれの姿を示しているのかも知れない。