歌詞
うちの隣の赤猫が 牡丹絞りの着物着て
足袋屋の暖簾に腰掛けて
もうしテッさん 足袋一足おくれんか
猫さんの履く足袋 どんな足袋
金襴緞子のネズミ色
猫さんが履いたら よい女房 あらよい女房(歌い手:明治35年生)
解説
猫が主人公になったわらべ歌は珍しい。これまでに鳥取県ではいくつか見つかったが、島根県ではまだ聞いていない。
さて、この歌では、猫はなかなかおしゃれである。「牡丹絞りの着物」を着て「足袋屋の暖簾に腰掛けて」というのであるから。
ところで、この牡丹絞りの着物とは、おそらく鮮やかな赤紫色でまだらに染めて着物に仕立てたものをいっているのであろう。そして主人公の猫は、足袋屋の暖簾に腰を掛けているという、ちょっと粋(いき)で姐(あね)さん風な身のこなしを示している。そして「もうしテッさん、足袋一足おくれんか」。という言葉遣いも、どこか芸者風な感じがする。そして最後に注文した足袋の色が「ネズミ色」というのであるから、ご愛敬である。ここで一度にユーモラスな気分にさせられてしまう。
要するに猫の動作を観察すると、やわらかい身のこなしが、このような芸者風な女性のイメージに通じるのであろう。そうして考えると、これは観察の緻密さから生まれた手まり歌といえるのではあるまいか。
さて、この歌を凝縮したような次のような手まり歌が、北栄町に存在していた。
猫が呉服屋に 足袋買いござる
足袋は何文 何の色
にゃにゃ文半の ネズミ色(歌い手:昭和6年生まれ)
足袋の文数を問うと猫の「にゃぁ」という鳴き声を擬して「七文半」と答えることにしているところにユーモアがこめられている。また好みの色は、米子市の歌と同じくネズミ色なのである。
ところで、終わりに猫を素材にしているが、更に簡単なものを紹介しておこう。これは米子市で見つけたものである。
猫ちゃん 猫ちゃん おめでとう(くり返す)(歌い手:昭和22年生まれ)
あるいはこの歌は、本来、まだ前後に詞章がついていたものが、伝承の過程でそれが脱落してしまったのかも知れない。
また、伝承者の生年から眺めて、後になるほど若い方であるのも、そのような推測をさせる理由の一つなのである。