歌詞
サイの神さん 十五日 おせらちゃ参ゃぁに 子どもらちゃ参ゃぁらんか
解説
路傍の神の一つでである「サイの神」は道祖神として村峠などの境界に位置し、疫病神や外部の悪霊などの招かざる侵入者を防ぎ、そこに住む人々や村を守るために祭られている。
わたしの調べたところでは鳥取県の西伯郡と日野郡に限って、サイの神参りの際に歌われていたわらべ歌が存在していた。案外、その周辺地域にも同類はあるのかも知れないが、これまでのわたしの調査では、まだ見つかっていない。ただ、日野郡日南町と県境で接している島根県仁多郡奥出雲町横田町竹崎で、一例、以前にそれを知らされたことがあるばかりである。
ところで、おもしろいことに、この神の性格は因幡地方と伯耆地方とではまったく正反対である。すなわち、因幡地方でのこの神はは縁切りの神とされ、嫁入り、婿入りの道中はこの神を避けて通る。また、子どもの咳を治す神ともされている。供え物としては、大ワラジとか大ゾウリなどを片方だけつり下げておく。つまり村境の峠や辻に立つ旅の神、道の神ということを示し、「この村にはこれを履くような大男がいるぞ」と思わせて、悪病神の入るのを防ぐ役割を果たさせている。また、足の病気を治してもらう神との意味もあるようだ。
一方、伯耆地方では、縁結びの神と考えられ、12月15日の早朝お参りすると、良縁が得られるとされている。供え物としてはワラ馬に団子と炭を負わせたものである。また、椀に穴を開けたものを供えると耳の病が治るとも言われている。
ここに紹介した歌は、おせ、つまり大人たちはサイの神様に早くお参りしているのだから、子供たちも早くお参りし、良縁を授けてもらいなさい、と朝寝を戒めているのである。
西伯町福成坂根の女性(1900年生)からうかがったのは、
サイの神さん 十五日 子どもらちゃ参るが おせらちゃ参らんか
と、逆に大人たちをせかしている。けれども、日野郡日野町福長井の原では、
サイの神は十五日 おせも子どももみな参れ(伝承者:女性・1912年生)
これは大人も子供も、ともにお参りしようと呼びかけた内容になっている。
最初にあげた歌をうたってくださった長沢糸枝さんの話では、この日。藁で馬とツトを作り、藁ツトに団子を入れて馬に背負わせてお参りし、後でその馬を燃やして焼いた団子を食べた。朝早く参ると、サイの神さんは「あれとこれと夫婦」と丁寧に縁を結んでくれるが、遅く参ると「あれ、これ、あれ、これ」と急いでしまわれ、良縁にありつけないといわれているとのことである。