歌詞
いいこと聞いた 疾(と)う聞いた 松が一本かえった 何持って起こそうか
線香(せんこ)持って起こそうか(伝承者:女性・昭和28年生)
解説
類歌をあげる。
松江市では、
ええこと聞いた 疾う聞いた 洞光寺山へ聞っこえて 松が三本転んで
洞光寺でらの小僧が なんぼ出てすけかぁても かぁても 転んだ
古代信仰を秘めるものとして、言霊、山、宿り木、聖数について説明しておいたが、類歌としてこの「…山へ聞こえて松が三本倒れた」というスタイルを持つ歌は、各地に見られる。まず、鳥取県の例で、
境港市芝町では、
ええこと聞いた 万聞いた とおの山へ聞こえて 松が三本転んで すけかぁてもどった(伝承者:女性・明治40年生)
島根県で三隅町井野東大谷では、
びりがびっちょう 泣いたげな 高津山へ聞こえて 松が三本倒れた 竹が三本倒れた(伝承者:男性・明治41年生)
などなどいくらでもあげられる。しかしながら、時代が下ってくると、しだいに古代信仰も忘れ去られてくるようで、今回最初にあげた日南町の歌のように「松が三本」とある聖数の「三」が消えて「一」に変わってしまっていたりする。
そしてさらに信仰が衰退して出現したと思われるのが、以下に示すような歌なのであろう。
ええこと聞いた 疾う聞いた 隣のハンドウ ぶちめえだ 何ぼうめえだ 十めえだ
合わせて三十三めえだ いんで父つぁんに叱られた(島根県江津市波積南本谷 女性・昭和23年生ほか)(※ハンドウとは、石見地方での水瓶をいう方言である。)
ええこと聞いた 疾う聞いた 隣のハンドウ(を) ぶちめえだ
こらえてやったら 泣き出した(島根県金城町雲城七条 女性・昭和24年生)
これらには、古代信仰を示す三の数字は、すでに消え去ってしまっている。そこから時代の新しさを知ることができるのである。
わらべ歌も時代の流れに沿って、少しずつ形を変えて行くものなのである。