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昭和51年(1979)9月22日、智頭町波多で採集

語り

 昔、あるときになあ、よいおじいさんがおばあさんに、ソバがえ餅をしてもらって、それを縄に通して畑へ出かけていったそうな。
 そうして、畑を打っていると、そのうち昼が来たので「まあ、昼ま食べょう。」と思ってかいた餅を食べようとしたら、小さいネズミが来たのだそうな。
 おじいさんが見たら、かわらしいものだから「おめえにもやろうかなあ。」言うて、そのソバがえ餅をちょっとやると、なんとうまそうにして食べるので、そのようにして与えていると、まあ、次々によけえ、よけえネズミが来るものだから、おじいさんは「あ、おめえにもやろうか。」「あ、おめえにもやろうか。」そう言って、次々出てくるネズミにみなあげていたら、自分のはなくなってしまうほどになったそうな。
 そうして、おじいさんが家にもどって「今日、おばあ、ほんに、昼う食べようにもなかった。ネズミが来たけえ、ネズミにやりよったら自分は食べようがなぇーようになった。けど、いいことをしたわや。あんまりかわいげやったけえ。」言うて「そりゃあ、ま、おじいさん、よかったな。いいことをしたと思やあいいわ。」と言っていたそうな。
 今度、また明くる日に、山へまたソバがえ餅ぅ持って行ったところが、今度もネズミがたくさん出てきたそうな。
 そうして、一人のネズミが「おじいさん、昨日はありがとうござんした。」と言ったそうな。
 そうして、「今度はネズミの浄土へ連れて行ってあげるけえ、そいだけえ、わしの尾っぽへさばって、目ぇつぶっとりんさい。」と言ったそうな。
 それから、おじいさんを目をつぶらして、ずーっとおじいさんがついていったところが、よいネズミ浄土があって、よい家があって、それから、ネズミたちが餅をつくやら、ご馳走を刻むやらいろいろとして、そうして、次々とおじいさんはご馳走になって、それから「おじいさん。いなれるおりにはこれを持っていにんされえ。」と言って、あれこれあれこれ土産に宝物やなどをくれたそうな。そいで、また「おじいさん、尾っぽへさばれ。」と言うので、おじいさんがネズミのしっぽにつかまると「目ぇつぶれ。」と言うので、また目をつぶっていると、そのうちしばらくして「やれやれ、おじいさん、もどった、もどった。」と言ったので、それからまあ、おじいさんは、その土産をたくさんもらってもどったそうな。
「まあ、おばあ、おばあ、今日はネズミが恩返しをして、こがあなもんをもろうたで。」
「そりゃあ、おじいさん、ごついことじゃなあ、なんちゅうええことだやら。お餅もあるし、よけーえこと、何もかにも宝もんもあるし、お金もある。ほんにこれからぁ安ちゅうに食えるで。」と、おばあさんが言っていたら、隣のおじいさんがやって来たそうな。
 隣のおじいさんは、羨ましくなって「何しよられるじゃ。」と言うので「いや、こげぁこげぁ、ネズミになあ、ソバ餅持って行って食わしたら、今日は恩返しにこげなことをしてごしたけえ、そいでまあ、ずっとこがあしてもらったものを広げておるとこじゃ。まあ、これで世話ぁない。ほんに何ぼうでもげぇして、二人がほんに食うて行けれるじゃ。」と言ったら、隣のおじいさんは「ふーん、そうか、そうか。ほんなら、うらもしてみよう。」と言って帰っていったそうな。
 欲ばりじいさんが、それからまた、ソバがえ餅を持って畑へ行っていると、そうしたらまたネズミが出てきたので「そりゃそりゃ、われにもやるぞ、われにもやるぞ。」と言ってそのソバがえ餅をみんなやったら、そうしたら、ネズミが「おじいさん、尾っぽへさばれや。これからネズミ浄土へ連れて行ってやるけえ。」と言って、それから、ネズミ浄土へ連れて行ってくれた。
 それからまあ、餅をつくやらご馳走をして、大変に歓迎していたそうな。
 そうしたら、一人のネズミが「おじいさん、わしらはほんに、猫いうもんがごっと好かんじゃ。ニャオーいうことさえ言われなんだら、ほんにええで。そのことだけは言いさんなよ。」言ったそうな。
 そして「猫さえおらなんだら、ほんに百まででも二百まででも、何ぼうでも生きれるけえな。」と言っていたところが、まあ、ネズミたちがたくさんの宝物から小判から、多くの銭を出したりしてくれていたそうな。
 そうしたところが、欲ばりじいさんなので、それがほしくてたまらないものだから、つい、
「ニャオーン。」とねこの鳴き真似をしたら「そら
、猫が来た。」と言って、ネズミたちがみな逃げてしまったそうな。そうすると、まあ、真っ暗になって、ネズミも一匹もいないそうな。
「まあ、ほんなら暗うはあるし、いろいろな宝物をさらばえて持っていのうーと思って一生懸命それらをかき集めて、さあ、出ようと、いくら出ようと思うたって、そこはまっ暗いし、土の中のネズミ浄土のところなので、少しも出ることができない。とうとうその欲ばりじいさんは死骸になってしまったそうな。そればっちり。
伝承者:女性・明治40年生)

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解説

 山陰両県で語られる内容は、主人公もネコの鳴き真似をしてネズミを脅(おど)かし、米とか餅、あるいは宝物などを持ち帰り、それを聞いた隣の爺が模倣して同様にふるまうが、ネズミに見破られて失敗するというのが一般的である。この語りでは、それとは違っているが、こちらの方がどうやら全国型のタイプと認めるべきもののようである。


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