語り
昔々、あるところのあるお寺に和尚さんと小僧さんがおりましたそうな。和尚さんはいつもお餅が好きで、お餅を焼いては一人で食べておりましたので、小僧さんが「何とかして一つほしいなあ。」と思いながらも、ようもらって食べることが出来なかったので「どうしてもらって食べようか。」と考えました。
ある日、和尚さんは、また、お餅を焼いていましたので、どうかしてそれを一ついただきたくて、のぞいていました。和尚さんところへ近づくと、あわてて和尚さんは火鉢の中にお餅を隠しました。さあ、そしたら小僧さんは「和尚さん、和尚さん、いい話があります。」「なんじゃいな。」ということで、火鉢へ近づきまして「近所にいいお家が建ちましてねえ。」「ほう、そうかいな。」火箸をつかまえて「このへんに柱が建ちましてねえ。」火箸を火鉢の中へ立てましたら「ああ、そうかい。」と、和尚さん、うなずいていたところが、上げてみたら火箸の先にお餅がくっついてました。
「和尚さん、こんなところにこんなもんが。」と言って、火箸のお餅を見せましたら「おう、食べなさい。」って言われたもので、小僧さんはそれをいただきました。その次にまた火箸を持ちまして「ここらにも一本、立ちましてねえ。柱が。」と言ったら、またお餅がついて上がりました。
「ほう、それも食べなさい。」ということになりまして、とうとう念願のお餅を腹いっぱい、いただいたそうです。その昔こっぷり。
(語り手:大正9年生まれ)
解説
関 敬吾『日本昔話大成』の話型では笑話の巧智譚「和尚と小僧」の中に「焼餅和尚」として登録されているのに一致している。