語り
とんとん昔があったげない。その昔、おじいさんとおばあさんが二人で住んでおられて、おじいさんは山へ柴刈りに行かれるし、おばあさんは川へ洗濯に行かれました。そげしたら上の方から、洗濯しちょったら大きな桃がドンブリカンブリスッパイコっていうようなが耳に聞こえて、ふっと見たら大きな桃が流れて、そいかあ、その桃を杓子みたいなもので、こう川の縁へよそけて、それをちょいと拾って持っていんで、そいから、そげしたら、おじいさんは山から柴刈からもどってくるし「おじいさん、おじいさん、今日はこげな大きな桃が流れてきたが、おじいさんもちょうど帰ってきたことだし、この桃を食べてみましょうや。」言って、その包丁で割るててしたら、中から割れたそうです。
そいで割れたら、男の子がひょいとそこへ出ました。
「あら、食べどころの話だない。」言うから、そいでおじいさんとおばあさんが「こらまあ、珍しいことだ。自分らちに子がないもんだけん、そいで天の授かりもんかも知らんけん、名前を何てつきょうか。」てて言った。
「ま、桃から生まれたけん、桃太郎にしょういや。」いうやぁな、ま、ことだって。そいで桃太郎いう名につけて。
そいで桃太郎がけえ、ずんずんずんずん三年経ち五年経ちするうちに、ずんずんずんずん大きんなって、そいでおじいさんやおばあさんに「おばあさん、鬼が島にかたき討ちに行くけん、キミ団子をこしらえてくれ。」て頼んだそうです。おばあさんがキミ団子をこしらえて、そうして、そのキミ団子をこしらえてもらったやつう、おじいさんは日本一て旗をこしらえてごされて。それいなって、キミ団子を腰い下げて行くところが、山の方へ行くよったら「桃太郎さん、桃太郎さん、その腰のもんは何ですか。」言って「これは日本一のキミ団子。」言って「わたしにも一つ、そのキミ団子をくださいな。」「いや-、やるこたぁやるが、自分について行ったらやるけん、鬼が島へかたき討ちに行かあと思う。」言って、ま、猿が一つキミ団子もらって食べてついて行く。
そうするとまた雉が出てきたそうです。
「桃太郎さん、桃太郎さん、その腰のものは何ですか。」
「これは日本一のキミ団子、それで今、鬼が島へかたき討ちに行く。そいで自分について行きたら、そのキミ団子をやる。」
そいで「ほんならください。」そいからもらって、その雉もついて行くし、そいから、そうしよったら、犬が向こうの方から跳んで来て「桃太郎さん、桃太郎さん、そのお腰のものは何ですか。」言って、ほで「これが日本一のキミ団子、今、鬼が島へかたき討ちに行くところだ。ついてくるならやる。」って言われたら、そうで犬も「ついて行きます。」て言うて、そいでキミ団子もらって食べて、そいからまあ、ずんずんずんずん、山越え谷越えして行くところが、大きな川のような海のようなところの方へ出たそうな。
そいでその雉が「自分がここから空へ飛び立って、どこから鬼が島へ行くのが一番いいか、自分が空から見てくうけん。」言って、そいから雉は空へ飛び立つし、そうから、猿はもう山へ慣れて木に慣れていますことだしして、そうから、みんなして組んで雉が飛んで「あそこがよからぁ。」言うて雉が見つけて鬼が島へ渡るところを見つけて、そいでそこから渡って、まあ、鬼は赤鬼やら青鬼やらいっぱいおって、しばらく雉は空から降りてつつくやら、犬は噛みかかるやらするものだやら、そいで猿は木の上から木の枝を折って投げたり、木の上から、その鬼の頭へ跳んだりして跳ね回って、そでけえ、しまいには鬼はとうとう負けてしまって、降参して、そうで「この全部ある宝物をみんなあんた方にあげえけん、自分も家来にしてごしぇ、そうでもう悪いことはせんけん。」て鬼が断わりするので、そか桃太郎が「ほんなら、よし、桃太郎の言うようにしさえすりゃあ、こうからも、もうこれでこらえてやあけん。」いいことになった。
それで、その宝物をいっぱい車に積んでもらって、そでして犬は真っ先に引き出す。そいから猿が後押すやら、雉がそのずんどの犬の鼻へ綱つけて引っ張るやらして、そげして鬼を征伐して、鬼はまた降参したそうです。そいでまあ「こりゃまあ、日本も平和になぁけん。」言っていうで、そいでもう宝物を積んでもどって、そげして村の人にもそれを話いて分けてあげて、みんな平和にどことも暮らすようになったいって。それでこの昔話はこっぽし、いうことでございます。
(語り手:明治32年生まれ)
解説
文久3年(1863)生まれの父から聞いた話だという。ただ、語りの内容は既に現在知られている一般型と同じであり、結局、このような内容になったのは、かなり以前からであったことが、この話から理解されてくるのである。