語り
昔、太閤さんが日本国中の殿さんを集めて、どの大名にも「歌を詠め。それまでにおまえたちに聞くが、歌というものはどういうわけでできるのか。」って聞かれたそうな。
そうしたら家来のうち一人が「それは太閤さま、山と言わんでも山と思わせ、川と言わいでも川と思わせるように作るのが歌でございます。」と答えたそうな。
「おう、そうか。そいじゃあ土から出(でこぶ)て言ったら山になるか。」と言われる。
その家来は「それは考え方でも、まあなりましょう。」と言った。
「よし、それではいい、いいが日本のここに集まっとる大名、それより一人ずつ、大きな歌を詠め。」
それから次から次にいろいろ大名が詠んだけど、それは略しておいて、一番しまいごろになってから、細川幽斎という者が詠んだそうな。
天と地を 団子に丸め 手に乗せて ぐっと飲めども 喉にさわらず
と、こう詠んだそうな。
「おう、りっぱなこりゃ大きな歌だ。褒美を取らせる。」太閤さんが感心して言われたところ、それまで黙っていた曽呂利新左衛門が「ちょっと待ってください。わたくしもやりましょう。」
天と地を 団子に丸め 飲む人を 鼻毛の先で 吹き飛ばしけり
と詠んだのだそうな。
「はあ、はあ、こりゃりっぱなもんだ。」て、太閤さんが言われ、曽呂利新左衛門が褒美をもらったそうな。
そしたら、今度は太閤さんは「日本一、ちさい歌を詠め。」と言われたそうな。
そこでおのおのの大名が詠んでいったが、それから、ある大名が、
髪の毛を 千筋に割いて 城を建て 百万えきの篭城をする
って。「う-ん、これもいい歌だ。褒美を取らそうか。」また、「待った、待った。」て言うので、また一人が、
蚊のこぼす 涙の海の 浮島の 真砂拾いて 千々に砕かん
「う-ん、これもりっぱな歌である。これは甲乙言わずに双方に褒美を取らせる。」っていうところで、それぞれが褒美をもらったという話。昔こっぽり。(伝承者:明治40年生)
解説
ここに紹介した話は笑話に属するが、関敬吾『日本昔話大成』では、直接関連のありそうな話型としては見つからないようだ。ただ、ある程度関わりのありそうなものとしては、「笑話」の中の「三 巧智譚」に属し、さらに「A 業較べ」に分類されている。「小さい較べ」と「法螺較べ」に当てはまるようだ。後者を紹介すると、「四人の法螺吹き。(a)天に達する大木。(b)富士をまたぐ大牛。(c)天にとどく大男。(d)胴辺り三百里の太鼓。2,太鼓はその大木でつくり、その牛の皮を用い、その大男にたたかせるといって、最後の男が勝つ。」 このような話なのである。