歌詞
ねんねこ ねんねこ ねんねこや
りんかのこの人この人
出家を害する手だてだ
早く早く早<(伝承者:明治26年生)
解説
遊ばせ歌としてうたわれるこの歌は、ちょっと見れば何のおもしろ味もないようだ。しかし、実はこの歌には昔話が添っていたと推定される。うたってくださった方にたずねてみたが、昔話の方は不明だった。
文献にそれらしきものを捜したが、やはり見つからなかったため、以前に隣の島根県那賀郡三隅町東大谷の男性(明治9年生)からうかがった話の大要を記しておく。
子守りに学問のある者を傭うと、育つ子が、えらくなるというので、ある家でそのような子守りを雇ったという。ところで、その家のおやじは、隣のおやじと組んで泥棒をしており、金持ちの旅人が来ると、宿を貸して泊まらせ、殺して金を盗っていた。
ある日金持ちの坊さんが泊まることになった。それを知った子守りは、「今夜こそ、坊さんを、助けてあげよう」と思い、坊さんが眠らないうちに、子どもの尻をつねってわざと泣かし、次の子守歌をうたった。
りんかあじんと かあじんと
ににんがもうすを ごんすれば
たそうをせっすと もうすぞ
やまにやまあ かさねて
くさにくさあ かさねて
デーン デーン デーン
これをカかりやすく書くと次のようになる。「隣家人と家人と、二人が申すを言すれば、他憎を殺すと申すぞ、山に山を重ねて(「出」つまり「出ろ」)、草に草を重ねて(「草々」つまり「早々に」)、出よ、出よ、出よ」の意となる。
これを聞いた坊さんも学問があるものだから、即座に歌の意味を悟り、その家を立ち去ったので、命が助かったということだ。
本県の歌も、おそらくこのような話の中の子守歌であったにちがいない。話そのものは忘れ去られても、謎解きのおもしろさを持ったこの歌だけは、遊ばせ歌として、子守り自身の遊びという意味合いもかねて、長くその命脈を保っているものと解釈できそうである。