語り
昔々、宮本左門之助っていう侍が諸国を回っておられたところが、大きなむく犬を鎖で縛って、したら、その犬がぽろりぽろり涙を出いとっただ。で「何でこがしてあるだか。」「この家の人にかみついたりするで、そっでこがぁにしてあるだ。」って。
「なら、わしにくれんか。」って言われたら「あげますのなんて、連れて逃げてください。」って。
そっでその犬もらって次の村に行かそうな。
そうしたら、みんなが泣いとっだ。
あれの家もこれの家もみんな泣いとるで「なんちゅうとこだ。こら泣き村ちゅうとこだか。」って言って聞かれたら「泣き村じゃござんせんけど、ここの氏神さんは祭りに若い娘を御供にあげにゃあならん。そっで今年は庄屋の娘さんに白羽の矢が立って、そっでみんながごがしていとしゅうて泣いとります。」って言ったそうな。
宮本左門之助は「神さんが人助けしられなならんやな神さんが、人御供をあげられるなんて不思議なことだ。まあわしに任してごさんか。」って櫃をこしらえて中に境して、片一方にはその庄屋の娘さんを入れて、蓋が開かんやに釘で打ちつけて、片一方にはその犬を入れて、蓋がそっちゃ取れるやにして、村のもんはそのお宮さんにになって上がって置いといて帰ってしまったそうな。
そんなら宮本は舞殿の下に鉄砲に二つ弾込んでねらっとったら、夜中になったらギ-ッてってお宮の戸が開いて、おじいさんとおばあさんと出てきて、そっで「おい、若い者、若い者、今日は祭りだけえ、みんなが出て来い、出て来い。」て言われたら、たくさん出てきて、踊れや歌えや相撲もあるしして、いろいろしよった。
「だいぶん夜も更けたけえ、こっから御供をほんならいただくことにする。蓋はぐってみい。」って。たら、人が若いもんが蓋はぐりかけたら、犬がうなっとるだけえ「ようはぐらん。」って言う。
「おまえたちがようはぐらにゃ、柴被りの伍兵を呼んで来い。」
そっで呼びに行ったら、その伍平がひょっこりひょっこり来たそうですけど、はぐりかけてみたら、その犬がおるだけえ「これまでと違うけえ、おらは御免こうむります。」てってひょっこりひょっこりいんでしまったって。
若い者はようはぐらんて言うし、そのおじいさんが「まことに愛想のないやつらばっかしだわい。」てって、杖もってひょーいと開けられたら、むく犬が出てあちこちあちこち若いもん、かみついてかみ殺し、で、おじいさんとおばあさんはそのお宮の中に戸を開けて入りかけられたところを、その宮本が鉄砲でねらっとって撃って、そうするうちに夜が明けたら「どうせ生きておらんだも知らん。」てって村の衆が総出で来てみたところが「これこれだ。」って。
みんな若い者らちはタヌキやキツネの子や古ダヌキの夫婦で、それをみな犬が噛んだ。
そっで、その宮本さんに礼を言ったら「わしに礼を言うよりゃあ、礼を言われるならこの犬に礼を言ってやってごしぇ。」って言って「犬のお手柄だけえ」。そっで村の人も喜んで「もうこうからは御供やなんかあげえでもええ。」その肉ぅ料理して食べて喜んだって。こっぽり。(伝承者:明治35年生)
解説
関敬吾博士の『日本昔話大成』の分類では、本格昔話の「愚かな動物」の中の「猿神退治」として登録されている話型がそれである。