語り
昔あるところになあ、馬子がおって、毎日毎日荷物を持って出て、またもどりにゃ何かを馬に負わしてもどりよった。
あるとき、魚を買うてっても、正月の鰤(ぶり)を買ってもどりよった。山姥(やまんば)が出てきて、
「馬子、馬子、われが持っとるその鰤を一本ごせにゃあ、われを取ってかんだるぞ」てって。
-ええ、気味悪いなあ-と思って、
「はあ-い」てって、一番こまいやつを一匹やったら、ぼりぼりぼりぼりかんで、
「まあ一本ごせにゃあ、かんだるぞ」てって。みな鰤をやってしまって、
「もうないか」てって。
「もうないわ」て言ったら、
「馬の足を一本ごせえ」て言って、
「馬の足はよう出さんわい。どあして切っだい。よう切らんわい」てって馬子が言う。
山姥は、やっぱり、
「馬の足、はや、切って出せ」て言う。馬子は、
「切ってって、よう出さんけえ。馬ほだぁこらえてごせ」ったら、
「まあ、しかたはない。こらえたるわい。は-あ、は-あ、腹が太い」で、いんでしまったって。
ああ、馬子は腹が立ってかなわん。よ-しよし、どこへ逃げるか見たると思って、それから後をつけて行ったら山姥の家へもどってきて、
「や-れ、腹が太い太い、あ-太い太い、や-あ-鰤を食ったらうまかったけど腹が太い。鰤ばっかしならいけんけえ、何ぞ口直しをせにゃいけんなあ」。そいから、
「まあ、ほんに餅を取っとったけえ、餅を焼いて食ったろうかい」。
そいから餅を囲炉裏へ焼いて、そいからこてこてしよったけえ、その間に馬子はアマダへ上がって、長い棒をとぎらかいて、そいからのぞいとったら山姥が逃げたけえ、その留守へもって餅をめがけて穴から棒を突き刺いて持ち上げて取ってしまう、
「ありゃ、ないぞ」てって。
「ああ、わればっかりいい目をしたっていけんていう、神さんがなら、取りなはったかも知らん。なら、もういっぺん焼かかい」って、
そいからもういっぺん焼いて逃げたやつう、今度ぁ半分ほど取っとったら、もどってきて、や、その半分の餅を食って、
「や-れ、腹が太い太い。や-れ、腹が太い太い、どこへ寝ようかなあ。あ-あ、どこへ寝ようかなあ」って。
「釜へ寝」って馬子が……
「ああ、神さんが釜へ寝って言いなはるけえ、釜へ寝よかい」言って、
そいから釜へ行って寝たら、ぐ-ぐ-ぐ-ぐ寝だいたげな。
-ああ、もうしめた-と思って、それから馬子がアマダから下りて、釜に蓋ぁして、そこら周りにある石をみんな乗して、そいからその方に行って枝ぁ求めてきて、そいから枝をぺちんぺちん折って、その火を焚くやあにぺちんぺちんいいよった。
「ああ、ぺちぺち鳥がう-たうけえ、やんがて夜が明けよぞ」言いて。ぐ-ぐ-ぐ-ぐ-しよったら火が燃え出いて、どうどうどうどういい出いた。
「ああ、どうどう鳥がう-たうけえ、やんがて夜が明きょうぞ」言いよったら熱うなってきて、
「熱い、熱い、熱い、熱い。こらどういうこった。まあ、熱いわ、熱いわ」言って。
「熱いは当り前だ、おどれが。鰤をくらったり何だいするけえ、おれは馬子だ。かたき討ちだ、覚えとれ」ちって。
「あ-、こらえてごしぇ、鰤はもどすけえ」
「どがしてもどすだい。もどいてもらわいでもええけえ、おのれ焼き殺いたる」
「こな馬子、こらえてごしぇや、こらえてごしぇ」言ったけど、とうとう山姥は焼き殺された。それで悪いことはしられんだあぞ。分かったのう。
昔こっぽり。(伝承者:明治40年生)
解説
どなたにもおなじみの昔話であろう。