語り
なんとなんと昔ああところにお寺かあって、おっさんと小僧さんと二人ござっただと。そうで、そのおっさんのところにお花さんていう女房(にょうば)が毎日通って来ましたって。
そうでその小僧が、そうがきしゃが悪あてきしゃが悪あて、どげぞして止めさせませんならんがと思っておったら。そげしたらその小僧は、「いっさい」て名だった。で、
「人がおっさん、”一切万端、何にもしぇ”て言ってどまかいていけんけん、名変えてつかわはらんか」
「おう、変えちゃあで。何ていう名にすうがいいだか」
「”くさい”て名にしてごしなはい」
「ほんなら、こうから”くさい”て名につけちゃあわ」て。
そうから、毎日、お花さんが通って来なはあで、
「お花さん、おっさんが”お花は、えだども、きゃ、尻が臭あてきゃ、ああで好かんわい”てって言いなはって」。そうから、こんどは、
「おっさんは、えらいえだども鼻がみたんなていけん」てって言わはっただって。
「こんど、お花さんが来なはりゃ、こげして鼻隠いちょうなはいよ」て、小僧が、おっさんに言って聞かしましただって。
「そげしたら、ほんならそげすうかいなあ」てって言っておったとこめが、また、やってござっただけん、そうから、
「くさいや、お花にお茶を出いてごしぇ」て言いなはっただって。
”あら、ほんに。尻が臭あ、臭あてていいなはりょったてえが、ほんに、あげして鼻を押さえておおなはあが、ほんに臭いすこで、まあ、こりゃ行かれんなあ”ていんで。おっさんはおっさんで、
”鼻がみともにゃ言って、お花が言ったてえけえ、鼻隠いちょらにゃいけんて、鼻こげしちょなはっただって。そうで、”尻が臭いすこだけん行かれんわ”てって。 そうからけ、お花さんがござらんやになっただって。そうで、そげな頓智がよう出たことだわいなあ、小僧さんが。その昔こっぽち。(伝承者:明治40年生)
解説
関敬吾『日本昔話大成』の話型によれば笑話の「巧智譚」にある「和尚と小僧」の中の「鼻が大きい」とされている話がこれに当てはまるのである。