歌詞
向こうばあさん縁から落ちて
すねをくじいて 膏薬(こうやく)貼って
歩くたんびに
あいたた ちょいとさ
あいたた ちょいとさ(伝承者:明治26年生)
解説
子どもの観察眼は非情である。この手まり歌の主人公の老女に向けて、縁から落ちてすねをくじいて痛がって歩く姿を、からかっているのである。
一方、「向こうばあさん」で始まる手まり歌でも、まったく違った次の内容の歌も広く存在していた。八頭郡八頭町日下部での歌。
向こうばあさん 縁から見れば
菊や牡丹や 手まるの花や
手まるよう来た あがれとおしゃれ
あがれお茶飲め おすべり煙草
煙草吸うまに おままが煮える
これのお菊は なしてまま食わぬ
腹が痛いか 夏がめしゃるか
腹も痛(いと)ない 夏がみゃせねど
腹に八月(やつき)の子がござる
スットコトンよ
また百ついた(伝承者・明治37年生)
これはまたちょっと変わった内容である。主人公は老女のように歌はs始まるが、まもなく手まる(手まりのことを昔の人で手まると発音することもあった)に変わってしまい、それとの会話の内容が、この家に住むお菊なる女性のことに移って行き、この女性が妊娠していて、すでに八ヶ月になっているというのである。
女の子の遊ぶ手まり歌にしては、なかなかどぎつい内容であるが、昔はこのような歌がよく見られたものである。筆者は半世紀前、島根県各地でも仲間の歌をよく聞かされたものである。
鳥取市青谷町楠根の類歌を見よう。
向こうあばさん 縁から見れば
菊や牡丹や 手まりの花や
手まりよう来た あがれとおしゃれ
あがれ言葉はかたじけないが
うちの姉さん なんでまま食わぬ
腹がにがるか 疝気(せんき)がさすか
腹もにがらぬ 疝気もささぬ
腹に三月のややがおる
あのスットントン
このスットントン(伝承者・明治40年生)
歌い出し「あばさん」は「おばさん」のこと。また「疝気」というのは、下腹部の痛みを総称しており、胃炎・
胆嚢炎あるいは胆石・腸炎・腰痛などが原因となることが多い。