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昭和60年(1985)8月16日、智頭町波多で採集

語り
 昔、雪が消えぎわには春ばるといって、毎年、田舎では、木をこりに行っていました。あるとき、若いもんが二人、
「春ばるに行こうで」ということになって、山に木をこりに行きました。
 そうして、木を切っているうちに昼になったので、
「昼ご飯を食べよう」と言って、昼ご飯を食べ、終わってから、一人の男は、そこに寝て昼寝をしました。そうすると、くたびれて、ぐ-っすり大きないびきかいて寝るし、一人の男は、雪の消え残ったのを、起きて、あそこをつつき、ここをつつき、消しておりました。まっ昼間をねえ。そのうち、
”昼寝のもんも起きるけえ”と思って見ていると、そのぐっすりいびきをかいて寝ている男の鼻の中に、虻(あぶ)が入って行きます。そしてまた虻は出て、また、飛んできて、虻が入って、また、ぶんぶらぶんぶらして、また、飛んで出て、と繰り返しています。
「何ちゅうえらいこと、しょうるな、虻が入っとるのも知らっと寝とるだがなあ」見ていたそうな。
 それから寝ているのを見ていた男が、
「おい、もう起きいや。仕事しょうや」と言って起こすと、眠っていた男は、
「うん、うん」と起きて来て、
「まーあ、そうじゃな。仕事せなな。だけどえらいええ夢を見たぞ」と言う。
「どんな夢じゃ」と聞くと、
「この山になあ、白い椿がある。その白い椿の根を掘ると金瓶(かねがめ)が出てくるいうて、そういうてなあ、神さんが教えてくださったで。おまえと二人、捜そう」って言うので、
「ふーん、そうかい」と答えて、それから、仕事をしてもどったものの、雪をつついて消していた男の方は、もう気になって気になってならないので、その山をあちこちあちこち捜していたら、なるほど白い椿がありました。
”ははあー、これだな”と思って、それから白い椿の根を掘ったところが、本当に金瓶が三つ出てきたので、持って帰りました。
 そうしたら、その寝とった男は、
「おい、おまえと二人、捜そう、言うたけど、おめえは白い椿を根を掘って、金瓶を掘ってきたげなが、わしはなあ、その金瓶半分くれえとは言わんけど、ちょっと見せてくれえや」と言ったら、
「そらあ、見せでも何ぼないと見んさりゃあええが」って、金瓶を三つ出して見せると、夢を見ていた男は、
「大きないい金瓶だなあ」とぐるりぐるり回していたところが、よく見ると『十のうちの一つ』と三つの瓶(かめ)に書いてあるではありませんか。ところが、その雪をつついて消していた男は字を知らなかったので読むことができません。それで字を読んだ男は、
”まーだ七つあるがよう”と思い、それから、
「まーあ、ええ瓶じゃ。大もうけをしたなあ」言うぐらいで帰ってから、日にちを変えて、捜しに行ったのです。
 行ってみればなるほど白い椿があって、そこに瓶を掘り出した跡がある。 男は、
”ここに後、七つあるじゃがなあ”と思って、一生懸命に掘って掘って掘ってみれば、本当に七つ出てきてねえ、大きな金持ちになって一生安楽に暮らしそうな。それだから、一人で欲ばりをしてはいけないのですよ。お互い、二人が行ったら半分ずつもらえましたのにねえ。
 そればっちり。
(語り手:明治40年生まれ)
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解説

 これはどなたにもおなじみの話であろう。。関敬吾『日本昔話大成』の分類では、本格昔話、運命と致富の中に「夢買長者」として登録されているのがそれである。
 夢は、天の神からの予兆であるという信仰が、この話の背景にあるが、欲ばった男にはそれなりの報いが用意されているところからも、先祖の人々の欲ばらずに、よいことはお互い仲よく分け合って過ごすべきだというメッセージがこめられているのであろう。


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