語り
とんとん昔があったげな。
あるところにおじいさんとおばあさんとあって、毎日、おじいさんは山へ柴刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行っていました。
そのおじいさんはね、一羽の雀を飼っていたの。一羽、雀をかわいがっていたんですよ。本当にとても大事にしていたのですが、ある日のこと、おじいさんは山へ柴刈りに行ったんです。
その留守におばあさんが、洗濯物に糊(のり)をつけようと張り板を出して「さあ、これから糊つけしよう。」と思ったところが、糊が空になっていたの。それは雀が知らん間に食べてしまっていたのです。おばあさんは糊つけをすることができんもんで、腹がたってたまりません。「こりゃこりゃ雀、おまえが糊を食べたな。」おばあさんはそう言って、篭の中から雀を捕まえてねえ、鋏で口を開けて舌をちょきんと切ってしまったのです。
雀は泣きながら、パタパタパタパタ発って行って、遠ぉいところへ行ってしまったんですよ。
そのようにして、おばあさんは腹をたてておったところへ、おじいさんが山から帰って来ました。おばあさんがおじいさんを見つけて「おじいさん、おじいさん、雀が糊をみんな食べてしまったでな、そいでわしは腹がたって、鋏でちょきーんと舌を切って逃がしてやったわいな。」それを聞いておじいさんは、空の篭を見て泣きながら「あーら、何て悲しいことをした。わしはじっとしておられん。これから捜しに行く。」と言って、杖をついてねえ、雀のお宿を捜しに行ったんですよ。
舌切り雀 こーろころ 舌切り雀 こーろころ
と言って、腰を曲げながらずっと、先の方の竹薮へ出かけて行ったんです。そうしたら、竹薮の向こうの方から、
キーコや バッタバタ キーコや バッタバタ
カランコ トントン カランコ トントン
じいさんししがない ばあさん管がない
カランコ トントン カランコ トントン…
と機(はた)を織る音がするんですよ。
それから、おじいさんはたいへん喜んで「あ、ここに雀がおる―雀や、雀。」と言ったら、雀が喜んでぱたぱたぱたぱたと出てきて「おじいさん、こっちへおいで。」って、家の中へ入れまして、そうしたら他のたくさんの雀がいるし、雀のお父さんやお母さんもとても喜びました。
「ああ、おじいさんがおいでた。」ということで、御馳走をいっぱい並べて、歌ったり踊ったりしておじいさんを慰めてくれたんです。
そして、おじいさんは長いこと御馳走になって、歌ってお酒やなんか呼ばれておったところ、もう帰らないといけないことになって「名残惜しいけど、わたしは帰るから。」と言いますもんですから、雀たちは「あら、おじいさん帰ったらいけんて。もっとここで遊んでください。」と言ったけれども、おじいさんが「さいなら、さいなら。」って言うもんですから「それではお土産をあげよう。」と言って、小さいのと大きいツヅラと持ってきて「おじいさん、お土産に持って帰ってください。小さいのと大きいのとあるが、どっちがいいか。」「わたしは年寄りだから、小さいのがいい。」と言って、おじいさんは名残惜しかったけれどもツヅラを背負って、涙を流しながら帰っていかれました。雀たちはみんなで見送りをしてくれました。
おじいさんが杖をついて家に帰ったところ、おばあさんが「ああ、帰らさったかや、がいな土産がああだねえ。」そう言いいます。おじいさんは「どっこいしょ。」と言って、玄関のところへもらった土産を置いて、そこのツヅラの蓋を開けたところめが、金や銀や珊瑚やいろいろな宝物ばかりか、お金も山ほど入っていたのです。
おじいさんは喜びました。そしていっぺんに裕福になりました。
意地悪おばあさんは、それを見て「ああ、わしもひとつ雀を捜しに行こうかなー」というところで、
舌切り雀 こ-ろころ 舌切り雀 こ-ろころ
と言って、その竹薮めがけて出かけて行きました。「雀、雀。」と言うと、雀たちは「意地の悪いおばあさんが来た。」と言いましたが、けれどもお迎えせねばいけんので「こっちへおいで、おいで。」とおばあさんを呼んで、御馳走をまた出したそうです。そうしたら、おばあさんはそこそこにして「早う帰るけん、お土産をください。」自分から言うものですから、雀さんは大きなツヅラと小さいツヅラとまた出して「おばあさん、お土産にツヅラをあげますから、どちらでも気に入ったのを取って帰って。」と言ったら、おばあさんは喜んで「よしよし、わしはこの大きいのがいいわい。」と、それを肩に担いで、重たいのをねえ
「さいならー。」して、とぼとぼとぼとぼと帰って行きました。そしてその土産が早く見たいのです。たーくさん宝物が入っているからと思って、まだ家に帰らんのに道端でね、それを下ろして「どっこいしょ。」と開けてみました。
そうしたらねえ、蛇とか大きなひき蛙とか、お化けの入道やなんかこわいものがいろいろ出てきてねえ、おばあさんは腰を抜かしてしまいましたと。
ほんとに、いいおじいさんはよかったけども、悪いおばあさんはそんな目にあった、という話でしたよ。
こっぽり山の芋。(語り部:明治35年生まれ)
解説
語り手は、自身のお宅でこの話を明るく、気持ちよく語ってくださった。この日一緒に訪問したのは、島根大学在籍のアメリカ人留学生をはじめ、中国人留学生2人、新聞記者、そして筆者の5人であった。この話は関敬吾博士の『日本昔話大成』を引用するまでもなく「舌切り雀」は「本格昔話」「隣の爺」の中にその戸籍を持っているのである。