防災・危機管理情報


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タイ王国及び他の東南アジア諸国の経済・産業動向、社会動向報告書

~高まるタイ人の健康志向~

 こんにちは。鳥取県東南アジアビューローの辻です。

タイでは近年、健康志向の高まりが急速に進んでおり、先日開催されたヘルスケアの総合展示会「CARE ASIA」においても、サプリメントなどの健康食品が人気を集めていました。         

 このことからも、普段の生活に深く関わる、運動習慣、食習慣への意識が大きく変わりつつあると言うことができます。今回はその中でも特に、健康食品に焦点を当て、タイの現状についてご紹介いたします。

現代のタイ人が抱える健康リスク

 少し情報が古くなりますが、WHOが2012年に発表した、タイ人の主な死亡原因の中には、動脈硬化に由来する虚血性心疾患が13.7%で1位、脳卒中が10.3%で2位、また7位に糖尿病(4.1%)がなるなど、先進国と同様、生活習慣病に起因するものが上位を占めるようになってきました。

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 以下のグラフは、高血圧、高血糖症、過体重、肥満の各項目について、1990年から2015年にかけて、タイの総人口に対する該当者の割合をグラフにしたものです。全ての項目で割合は上昇しており、特にBMIの値が肥満に該当する男女の割合は上昇率が高く、2005年から2015年の間で、男性が21%から36.2%。女性が、33%から48.3%まで、それぞれ15%程その割合を上げています。

グラフ

   出典:WHO https://apps.who.int/gho/data/node.main.A867?lang=en

 日本におけるBMIが25以上の肥満に該当する20歳以上の割合は、2015年の時点で、男性が29.5%、女性が19.2% でしたので、特に女性のBMIが25を超える割合について、日本とタイの割合に開きがあることが分かります。

砂糖税の導入

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 この健康問題は、運動量の少なさや、所得水準が向上したことによる生活様式の変化、食生活が欧米化したことによる加工食品と炭酸飲料水の摂取量の上昇などに起因するとされています。その中でも大きな一因として、タイ人の砂糖の摂取量の多さが挙げられます。WHOが推奨している、成人の一日における砂糖の摂取量は、小さじ6杯分とされています。そんな中、タイ人の摂取量は小さじ28杯分といわれており、WHOの推奨量より4倍以上もオーバーをしています。また、この数字は日本人の平均摂取量の約3倍になります。

 この状況に危機感を持ったタイ政府は、2017年9月から、この砂糖の過剰摂取の予防を目的に、砂糖を含有する飲料に対し、含有量に応じて課税を行う物品税が導入されています。100mlあたり6g以上の糖類を含む飲料が対象となり、含有量が多いほど課税額が高くなります。これに伴い、飲料メーカーでは商品の値上げを避けるため、含まれる砂糖の量を減らしたり、サイズを小さくするなど対応をしています。

 当初の当該規則では、2019年10月1日、2021年10月1日、2023年10月1日と、2年おき3段階で税率を引上げることが規定されていました。しかし、新型コロナウイルスの流行や、飲料事業者の経済負担の軽減を理由に、2021年10月の税率引き上げは、1年の延期とされました。しかし更に、2022年9月には、引き上げ時期のさらなる延長が発表され、当初2021年10月に予定されていた税率の引き上げは、現在2023年4月まで再延期されることが決定しています。この政策が実際にこの状況の打破に繋がるか注目されます。

タイの健康食品

 アメリカに本社を置く調査会社Nielsen社が行った健康に関する調査の中で、タイ人は健康維持のために、運動よりも健康的な食事を心がけていることがわかりました。

 調査対象の内の約90%が健康飲料を、80%が健康食品を日常的に摂取するよう心がけていると回答しました。その中でも特に、健康飲料や機能性飲料や青果、ハーブ飲料は人気が高く、含まれる栄養成分や摂取の手軽さが重要視されているという結果となりました。

 同調査では併せて、どういったものが健康食品、飲料に当たるかという認知度は高いものの、実際にそれを摂取することによって得られる効能への知識は低いことが分かりました。  

 例を挙げると、「繊維質が多い」「高タンパク」「100%天然素材」などといった表示がされているものは健康に良いと分かっているが、実際に摂取した場合に、身体にとってどのようなメリットがあるのか理解をしている方は、全体の4分の1程度だったとのことです。

 上記から、健康のために食習慣を改善しようという意識は高く、健康維持が購買動機とはなっているものの、個人消費のレベルでは、その食品のもたらす効能までの知識はないことが分かります。今後、消費者レベルで健康食品、オーガニック食品の具体的な効能を周知することができれば、より需要は高まっていくと予測されています。

ヘルシア・チョイス(Healthier Choice)

 日本で健康食品と呼ばれるものは多く流通していますが、その中で国によって制度化されているものの1つが「特定保健用食品」です。「特保(トクホ)」という名称で広く知られていますが、「食生活において特定の保健の目的で摂取する者に対し、その摂取により当該特定の保健の目的が期待できる旨の表示を行うもの。」を定義とし、生理学的機能などに影響を与える保健機能成分を含む食品のことを指します。「特定保健用食品」として販売をするには、その表示について消費者庁長官の許可を受けなければなりません。

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ヘルシア・チョイスマーク

 

 タイでも、肥満や生活習慣病等、国民の健康状態を危惧した政府により、日本における特定保健用食品と同様、2016年から、一定の条件を満たした飲料・食品に対して「ヘルシア・チョイスマーク」が付与できる制度が施行されました。ヘルシア・チョイスとは「より健康な選択肢」という意味です。

 ヘルシア・チョイスマークの大きな目的は、生活習慣病の主な原因とされる、糖分、塩分、脂質を含む、食品に含まれる栄養成分を検査し、認可をすることにより、国民の購買活動の指標となることとされています。

 現在、このヘルシア・チョイスマークを取得可能な食品の分類は、(1)食事、(2)飲料、(3)調味料、(4)乳製品、(5)インスタント食品、(6)スナック、(7)アイスクリーム、(8)油脂の計8品目です。

 また、検査の対象となる栄養成分は、(1)総脂肪、(2)飽和脂肪、(3)タンパク質、(4)繊維、(5)全糖、(6)塩分、(7)カルシウム、(8)鉄の8項目で、それぞれの栄養素の、100kcalあたりの含有量によって得点が定められており、含有量が低いほど高得点となります。

 ヘルシア・チョイスマークの使用には、(1)得点の合計が一定値を超えることと、(2)1食につき250~500kcalであること、(3)総脂肪、飽和脂肪、砂糖及び塩分の各スコアが1以上であることの3つが条件となります。

これに対して、日本の特定保健用食品の表示許可を得る際に求められる要件の中には、

(1)食品又は関与成分について、表示しようとする保健の用途に係る科学的根拠が医学的、栄養学的に明らかにされていること。

(2)食品又は関与成分についての適切な摂取量が医学的、栄養学的に 設定できるものであること。

等、単に含まれる栄養成分に基準値を定めるだけでなく、消費者の健康維持、促進に寄与することの証明が必要となるため、タイのヘルシア・チョイスマークの表示許可の基準よりも厳しいものとなります。

 ヘルシア・チョイスマークの使用を許可されている食品数を見ると、制度施行の2016年から2022年10月までで、タイ国内で423社の製造する2,676品目が、このヘルシア・チョイスマークの使用を許可されています。その中でも飲料分野で登録されている商品が最も多く1,813品目と全体の約70%近くを占めています。次いで乳製品が236品目となっています。

 実際にスーパーマーケットを巡ってみると、シュガーレスやシュガーフリー、コラーゲンを含むなどといった飲料の数が多いように感じました。また、乳製品では、脂肪ゼロや、乳糖を含まないラクトースフリーの牛乳、プロテインを含む牛乳や、低脂肪のヨーグルトが対象となっています。飲料、乳製品の他にも、調味料では減塩醤油やキューピーの脂質、塩分減のドレッシングであったり、他にもインスタント麺や、スナックとしてひまわりの種などにもヘルシア・チョイスマークが付けられています。

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脂質・塩分減のドレッシング

 

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左:ノンシュガーのコカ・コーラ    右:オリジナルのコカ・コーラ

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タンパク質やビタミンを多く含む冷凍食品

今後の市場動向

 2019年の10月より、健康の維持や促進を補助する、機能性飲料やフルーツ・野菜ジュースに対する減税が実施されています。機能性飲料は14%から10%へ、フルーツ・野菜ジュースは10%から3%へ減税されています。これにより、企業間の競争の促進と、より多くの企業の飲料業界への新規参入が期待されます。機能性飲料の市場規模は、2007年時点で40億バーツでしたが、2018年までに60億バーツに成長しています。先に述べたように、ヘルシア・チョイスマークの認可がおりている商品の多くは飲料であり、今後の競争の激化や企業の市場への参入により、市場の更なる拡大が期待されています。

 また、市場調査会社大手のミンテル社が、2018年5月に行った、バンコク首都圏に住む16歳以上のインターネット利用者15,000人を対象にした調査によると、健康的な生活を追求する首都圏のタイ人は、「健康食品は何か」という問いについては、「天然成分(67%)」「低脂肪(61%)」「有機(56%)」「低カロリー(55%)」「微糖(54%)」であると認識しています。一方で、「飽和脂肪(53%)」「精糖(43%)」「塩(33%)」「赤身の肉(33%)」の摂取を避けていることが分かりました。

 摂取を避けている脂肪、糖、塩分については、先のヘルシア・チョイスマーク対象になるため、今後このマークの信頼性、認知度が高まっていけば、より同マーク利用の認証を得る企業、食品が増えていくのではないかと予想されます。

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