昭和62年(1987)8月23日、智頭町波多で採集
歌詞
わしとあなたは石臼夫婦
入れて回せば粉(子)がおりる
わたしゃあなたにほの字が入れる
後の一字が入れにくい
(伝承者:明治40年生)
解説
唐臼を挽きながら歌う作業歌であるが、歌の内容は、生活の中の状態を巧みにうたい込んでいる。しかし、音声が聞き取れない部分もあり、後の歌の詞章は正確かどうか分からない。
最初の詞章は、石臼の「粉」と夫婦の「子」をかけており、かなり露骨な内容であるが、夫婦生活を読み込んで、労作歌に仕上げているのである。
農家の労働は厳しい。昼は炎天下で野良仕事に精を出し、夜は夜で唐臼で製粉するなど精を出したものである。そのようなおりにうたわれる歌の詞章に、このようなどぎつい内容もときおりはうたったものであろう。
ところで、歌い手の女性は、筆者にとっては忘れられない方である。筆者が彼女を訪問した目的は、労作歌やわらべ歌を収録するためではなく、昔話をうかがうのにあった。鳥取県東部地方の語り手としては、前々から書物を通してよく存じ上げている方であった。彼女の語りは、丁寧で欠落がなく、しっとりとした語り口調の見事さにいつも感心させられていたものである。
最初にうかがったのは昭和54年9月15日だった。このときは6話うかがったようであるが、昭和60年8月15日まで都合5回で71話の昔話をカセットに録音させていただいているわらべ歌や労作歌もいくつか録音させていただいた。