昭和62年(1987)8月23日、智頭町波多で採集
歌詞
来るか来るかと川下見れど
河原ヨモギの陰ばかり
ダイタナア ホンジャナア
挽いてくだされ一番挽きを
二番挽きからわしが挽く
ダイタナア ホンジャナア
今夜来なされおとっつぁんが留守じゃ
おかか盲で目が見えぬ
ダイタナア ホンジャナア
あなた来んがし
来るとは言うたが
乱ればしだよ くきばかり
ダイタナア ホンジャナア
(伝承者:明治40年生)
解説
唐臼を挽きながら歌う作業歌であるが、歌の内容は近世民謡調であり、平素の庶民の生活を巧みにうたい込んでいる。しかし、音声がやや聞き取れない部分もあり、最後の「乱ればしだよ くきばかり」のところは正確かどうか分からない。
今回は囃し詞を含めて紹介しておいた。基本形は近世民謡調の7・7・7・5である。そして内容は、男女の機微をうたったものであることも、一目瞭然である。
最初の「来るか来るかと川下見れど河原ヨモギの蔭ばかり」の詞章は、なかなかロマンチックで、余情深さを感じる。次の詞章は相手に最初を譲って次を自分が作業するという、ある意味では謙譲の美徳といえなくもない。
ところが三番目のは、なかなかどうして夜這いを期待した内容である。第二次世界大戦前までは、あちこちの農村で夜這い風俗が多くあったわけで、そのへんの事情を彷彿としたものである。最後の詞章は約束をなかなか果たそうとしない相手をけなした内容となっている。ただ音声が安定せず、正しく文字化したかどうかが、やや不安であるところを了解いただきたい。