昭和62年(1987)8月23日、智頭町波多で採集
歌詞
ねんねんころや ねんころり
ねんねこ さんころ さんころり
ねんねんするなら お乳やろ
乳が嫌なら嫁いかしょ
お嫁の道具は何道具
箪笥に長持ち鋏箱
これほど手つけてやるほどに
さりとて戻るなこりゃ娘
さりとて戻ろと思わねど
千石積んだる船でさよ
風の吹きようで舞い戻る
行ってみにゃ舅の気も知らず
行ってみにゃ殿御の気も知らず
ねんねんころりや さんころり
よいよいころりや ねんころり
よい子やよい子や寝てくれよ
(伝承者:明治40年生)
解説
子守歌も、ある意味では労作歌に属すると言えるのではないかと考え、取り上げてみた。
赤児を寝かしつけるための子守歌である。赤児の機嫌を取って眠らせようとする詞章を並べているが、人情の機敏さも込められているところがおもしろい。
最初のところこそ、赤ん坊を寝かしつけるためにやさしく語りかけているのであるが、歌が進むにつれて、結婚後のことに話が飛躍してくる。案外、このところは赤ん坊に語りかけているのとは違い、子守り娘自身の将来のことを、子守歌にかこつけて歌っているように思えてならない。「千石積んだる船でさよ、風の吹きようで舞い戻る」とか、舅や夫の気も知れないとか、昔の見合いで結婚する方式では、絶えずこのような心配があったのである。したがって子守り娘にしてみれば、やがて訪れる自身の結婚について、いろいろと気になることであり、それが子守歌の詞章に混入されてくるのも自然のことだったのかも知れない。
そうして最後は「よい子やよい子や寝てくれよ」と無難な結びになっているのもおもしろいのではなかろうか。