鳥取県教育委員会委員長職務代行者 堀田收
今回第三回コラムリレーを担当いたします鳥取県教育委員会委員の堀田收です。教育委員会は、私にそのような素養があるかは別にして、教育の専門家だけでなくさまざまな分野から選任された委員で構成され、教育行政における重要事項や基本方針を決定することになっています。今後教育委員会制度がどうなるのかは、国会の論議に託されているところですが、私たち鳥取県民は将来を担う鳥取県の子どもたちの教育がどうあるべきかに注力したいと思います。鳥取県教育委員会、市町村教育委員会と学校が信頼関係を持って、現場主義で学校現場がもっと明るく元気になるようにそれぞれが専門性を発揮して全力を尽くしたいと思います。
自己紹介しますと、私は中小企業の経営者(堀田石油(株))であり、5人の子の父であります。本年堀田石油では4人の新入社員を採用し、先日入社式と新入社員の集合研修を行いました。このコラムでは、中小企業の採用と人材育成を通じて学校教育に思うことを書かせていただきます。
中小企業の採用
小さい子どものころから、新聞やテレビでよく見聞きしてきた大企業の採用と私たち中小企業の採用では状況がまるっきり異なります。最近は大企業の求人が大きく増加して、一般的に中小企業はますます求人難になってきています。採用の難しい中小企業であるからこそ、採用に費用、時間、労力をかけなければなりません。人材育成のしがいのある人を採用しなければ、人材育成は砂漠に水、海に塩となってしまいます。
また、会社の評判がいいことが、社員を惹きつけ、採用募集を容易にしますし、会社の仕事が高度になればなるほど、優秀な人材が集まりやすくなります。願わくば中小企業には中小企業を理解する人を採用したいので、学歴、年齢、新卒、経験などの過去の履歴にはこだわりません。要するに、会社にはその会社の器量以上の人は入ってはくれないのです。言いかえれば、いい人材を採用するには、会社が成長していなければならないし、その為には、社長をはじめとする社員全員のレベルが上がっていかなければならないのです。
中小企業の人材育成の基本的な考え方
まず、どうして人材育成が必要なのでしょうか。
一つ目は、商品そのもので差をつけにくい時代になってきており、サービスが企業の格差になってきているので、サービスの提供を行う「人」の格差がそのまま企業の格差になりうるのです。
二つ目は、先ほど申し上げましたように、中小企業は求人難であり、なかなか能力とやる気に溢れた社員は中小企業には入ってこないのが現実です。そこで、“たまたま”入ってきた社員の能力をどのように伸ばすのかが、中小企業の勝負どころになります。
三つ目は、転職者はキャリア・アップのため人材育成のチャンスを求めているので、人材育成制度のレベルで社員の採用の成否が決まるからです。
人材育成の評価
それでは、人材が評価される順番はどうでしょうか。
私は、こう考えます
第一位は、自分から提案し、実行し、成功した人です。
第二位は、自分から提案し、実行したけれども、残念ながら失敗した人です。
第三位は、上司から言われて、実行し、成功した人です。
そして最下位は、提案も、実行もせず、ただ批判だけしている人です。
私のつけた、これらの順番は、少し学校での評価の順番とは異なるかもしれません。
残念ながら、全般的に、新卒、中途採用を問わず、中小企業に入社する社員を見てみますと、基本的なしつけ(躾)の部分から会社が行う必要があると考えたほうが、会社にとっても新入社員にとっても安全なのかもしれません。ですから、小さい会社では、組織的な人材育成の手法より、社長自身が人材育成のもっとも重要な人材と考え先頭に立って、経営者自身も勉強しながら、幹部から全社員を巻き込んで一緒になって、全力で人材育成に取り組まなくてはなりません。
人材育成と学校教育
また、私たちを取り巻く社会環境に目を向けると、企業のほうも資本主義の名の下で、行き過ぎた拝金主義に陥っている傾向も見られます。社会的な信用を失墜させている経済事件も後を絶ちません。社会システムが大きく変化して、大人社会の生活時間も夜型に変わってきました。メディア、インターネット、IT機器や携帯電話が仕事だけでなく、家庭生活にも入り込んでいます。社会全体の生活環境が大きく変化しましたが、子どもたちは生きる時代を選ぶことはできません。社会と学校のかかわりも多様化し、学校へのリクエストも以前よりさまざまで期待も大きくなっています。生活環境と価値観が大きく変化する中で、子どもたちの生活習慣をどうやって守っていけばいいのでしょうか。企業に入ればおそらくまずパソコンとインターネットを使いこなすことが要求されます。社会環境の変化をよく理解した上で現実を受け入れながら、子どもたちにとって積極的に変えていくべきことと、絶対に変えてはいけないことは何なのか。子どもたちには、バーチャルな世界ばかりではなく、是非、地元の豊かな自然を体験することで、郷土愛みたいなものを醸成できたらとも願っています。
中小企業では会社の生き残りをかけて、人材を採用し、人材育成しているのです。企業は切実に良い人材を求めているのですから、子どもたちが経済的にも精神的にも真に自立して、心豊かな人生が歩める人になれるように願っています。
鳥取県教育委員会は「自立して社会の中で心豊かに生きていくことのできる人づくり」をミッションとしています。企業と学校、立場は違っても、子どもたちへの思いは同じです。
鳥取県民すべての思いも重なると思います。このミッションを果たすために、それぞれの役割を果たして、協力し合い、ミッションを実現したいと願っています。